Zホールディングス(ZHD)、ヤフー、LINEの3社は23年度中を目途に合併を実施する。これまで分断されていた3社のサービスが統合されれば、国内でも有数の巨大なマーケティングのプラットフォームが誕生することになる。そこで、広告支援会社ATARA(東京・新宿)CEO(最高経営責任者)の杉原剛氏に、統合によって起こり得る変化について3つのポイントで解説してもらった。杉原氏はかつてヤフーが買収した検索連動型広告事業のオーバーチュアの社員として、経営統合に携わってきた。その経験から、3社の統合の行く末を聞いた。

Zホールディングス(ZHD)、ヤフー、LINEの3社は23年度中を目途に合併を実施する(写真/Shutterstock)
Zホールディングス(ZHD)、ヤフー、LINEの3社は23年度中を目途に合併を実施する(写真/Shutterstock)

 「広告の売り上げは依然として厳しい。年度末の予算消化も期待は見込み薄だ」

 あるデジタル広告関連会社の関係者はこう吐露する。新型コロナウイルス禍による外出自粛で在宅時間が増え、消費者のネット利用時間が急速に増加した。それに伴い、ネット広告市場も大きく成長を遂げたが、それも一巡し、成長が鈍化している。大手プラットフォーマーが相次いで、大規模な人員削減を実施している。今後は、サード・パーティー・クッキーの廃止など、プライバシー問題がさらにデジタル広告市場に追い打ちをかけることが予測される。

 その影響は、ネット広告の巨大なプラットフォームを抱えるZホールディングスグループも無縁ではなかった。同グループの2022年度第3四半期の広告関連売上収益は1515億円で、前年同期比で約2%減となった。これまで2桁成長を続けてきたLINEを単独で見ても、伸び率は同0%と横ばいを維持するのが精いっぱいの状況だ。「22年度後半に入り、急速に市場環境が悪化。業績をけん引してきた広告では、収益が急激に減退」(ZHD)と危機感を露わにする。ZHD、ヤフー、LINEの統合はこうした状況を打開するためだという。

 「統合はようやくという印象だ」。こう話すのは、広告支援会社ATARA(東京・新宿)CEO(最高経営責任者)の杉原剛氏だ。ヤフーとLINEが経営統合を発表したのは2019年11月のこと。それから経営統合が完了するまで、約2年を費やした。だが経営統合が完了した後も、各社の事業の多くは独自路線を貫いた。例えば、コード決済。現在もZHDの「PayPay」とLINEが展開する「LINE Pay」は、それぞれ独立して存在している。それぞれ強力なプラットフォームを持つ2社だが、広告事業でも統合的なサービスの展開は不十分だった。

 「広告主は広告事業を強化するマイクロソフトや、『TikTok』『Pinterest』といった新興勢力に広告予算を割くようになっている。広告プラットフォームの断片化が加速しているが、広告主目線では多いほど手間がかかる。よりボリュームと効果がより求められている」と杉原氏は説明する。その点、「ヤフーのサービスは利用者が目立って落ちているわけではないが、徐々にシェアを他のサービスに奪われている」(杉原氏)と続ける。

 これまでヤフーが誇ってきた圧倒的な広告配信ボリュームという強みが、徐々に失われつつあるわけだ。「広告商品としての競争力の低下も(広告収益悪化の)一因となりつつある」(ZHD)。こうした中、3社を統合することで、より規模のある広告サービスを開発し、かつての輝きを取り戻そうという意図が感じられる。

 「プラットフォームを開発するうえで、IDや経営の意思決定がグループで散らばっていると、どうしてもスピードが鈍る。複数社で別々に経営判断をしている状況では、サービスの統合などは進みにくい。サービスの規模拡大だけでなく、統合することで意思決定のスピードを速められる可能性がある」と杉原氏は説明する。

 そこで、杉原氏に三社の統合が実現することで、広告プラットフォームとして、より価値を高めるうえで重要になるポイントを解説してもらった。杉原氏は「ID統合」「CRMの包含」「動画広告」の3つを挙げる。

広告支援会社ATARA(東京・新宿)CEO(最高経営責任者)の杉原剛氏は、ZHDグループの経営統合でマーケティングプラットフォームに起こり得るポイントを3つ挙げる
広告支援会社ATARA(東京・新宿)CEO(最高経営責任者)の杉原剛氏は、ZHDグループの経営統合でマーケティングプラットフォームに起こり得るポイントを3つ挙げる

ID統合によるデータ分散化の解消に期待

 1つ目のID統合の実現は、広告事業を統合するうえで極めて重要だ。現状、ヤフーのサービスとLINEのサービスは、それぞれ異なるIDで利用している層が多い。これによりデータの分散化が起こっている。「ヤフーの強みは検索をはじめとしたメディアのデータと広告掲載面が豊富なこと。LINEは、企業が顧客とコミュニケーションできるメッセージングが最大の資産だ。IDの統合により、両者をまたいだデータの活用ができるようになる。強引にでも統合を進めなければ、両者の強みを最大化することは難しい」(杉原氏)

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