東京駅構内にある商業施設に、商品を“売らない店”が期間限定でオープンした。できることは、商品・サービスの試飲や試食といった体験のみ。利用者へのプロモーションとマーケティングデータの取得に特化した店舗だ。サントリーは、駅での新しい利用シーンを創り出そうと、ノンアルコール商品と駅ナカの組み合わせの認知拡大を目指す。

東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」で実施した「&found」の実験店舗(写真/JR東日本クロスステーション提供)
東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」で実施した「&found」の実験店舗(写真/大日本印刷提供)

 駅ナカとショールーミング店舗は相性がよいのではないか。このような仮説の下、駅構内の商業施設を運営するJR東日本クロスステーション(東京・渋谷、以下、JRC)と大日本印刷(以下、DNP)が協業し、「&found(アンドファウンド)」というポップアップ店舗で実証実験を続けている。JRCが持つ駅ナカのロケーションに、DNPが推し進める次世代型店舗づくりの技術を組み合わせた。

 ショールーミング店舗とは、商品は陳列されていても、その場で購入できない店舗のこと。いわゆる“売らない店”だ。その場では、利用者に商品を触ってもらったり、味わってもらったりするなどの体験を提供し、商品・サービスの理解と購買につなげるのが目的だ。加えて、アンドファウンドでは、来店客の同意を得た上で、その行動や接客時の会話データを取得して分析し、その結果を出店者にフィードバックすることで、出店者のマーケティングにも活用できるようにしている。

店員の胸元に付いたマイクで利用者との会話を録音。接客後に、店員のスマホにインストールした専用のアプリを通じて、クラウド上にデータをアップロードすると、自動的にテキスト化される
店員の胸元に付いたマイクで利用者との会話を録音。接客後に、店員のスマートフォンにインストールした専用のアプリを通じて、クラウド上にデータをアップロードすると、自動的にテキスト化される

 2023年2月10日~3月3日は、東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」で実施した。サントリーやカゴメといった大手や、試食専門店メグダイ(東京・渋谷)といったスタートアップなど計6社がブースを出店。計30点の試食や試飲が行われた。

 実証実験では、出店期間ごとにテーマを設けており、今回は「ウェルビーイングな食」。心身ともに良好であることに加え、満足した生活を続けていけるような食事を、各企業が提案した。「東京駅の利用者は、旅行客やビジネスパーソンが多く、40~50代の男女が中心。社内で想定したペルソナは、ある程度所得が高く、子育てが一段落して健康に気を使う世代。そこからウェルビーイングというキーワードが生まれた」と、JRC デベロップメントカンパニー新事業戦略室の播田行博氏は明かす。

 例えば、サントリーはノンアルコール体験を押し出し、「オールフリー」「のんある晩酌レモンサワーノンアルコール」「ノンアルでワインの休日」の試飲を行った。カゴメは、約30秒で野菜摂取量を推定する機器「ベジチェック」を設置。メグダイは、全国からよりすぐりのカレーや神戸牛肉まんなどの試食を実施した。DNP情報イノベーション事業部の村松孝弘氏は、「体にいいものは高いし、おいしくないといった先入観がある。体験してもらえれば本当の良さが分かってもらえる」と体験価値の重要性を語る。

展示された商品の横にある「試食カード」を引き換えカウンターに持ち込むと、試飲できる
展示された商品の横にある「試食カード」を引き換えカウンターに持ち込むと、試飲できる
カゴメのベジチェック体験風景。装置に手のひらを載せると、30秒ほどで野菜不足かどうかが判定される
カゴメのベジチェック体験風景。装置に手のひらを乗せると、30秒ほどで野菜不足かどうかが判定される

 アンドファウンドの狙いは、駅ナカでの「商品のプロモーション効果の測定」と「マーケティングデータの取得」にある。一般的なショールーミング店舗は、情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる層が目的を持って来店するケースが大半で、店舗でもそれなりの時間を使って商品を体験する人が多い。一方、駅ナカの店舗は通勤や通学の途中にあり、毎日同じ道を通る中で、ふらっと立ち寄れる。10分程度の隙間時間で体験するケースが多い。結果的に、従来のショールーミング店舗とは異なる層への認知拡大や、今までタッチポイントが少なかった顧客データが収集できる。

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