日経トレンディが発表した「2023年ヒット予測ランキング」で3位となった「カスタムビール」。その代表格が、サントリーの新ビール商品「ビアボール」だ。未来のビール市場の生き残りをかけ、飲酒離れが進むといわれるMZ世代(ミレニアル世代とZ世代、この記事ではZ世代は飲酒可能な20歳以上)に訴求するために開発された商品だ。MZ世代は、飲酒への興味が薄いことに加え、情報感度が高いため従来の広告手法が効かないといわれる。そうした世代をどのように取り込み、話題商品となったのか。背景には、徹底した情報設計戦略があった。

サントリー宣伝部 宮田晃浩氏 2011年入社サントリー入社。酒類企画部・デジタルマーケティング本部などを経て、21年4月より現職。現在、ザ・プレミアム・モルツとビアボールブランドの事業宣伝を担当
サントリー宣伝部 宮田晃浩氏 2011年サントリー入社。酒類企画部・デジタルマーケティング本部などを経て、21年4月より現職。現在、ザ・プレミアム・モルツとビアボールブランドの事業宣伝を担当

 ビールを炭酸で割る、その新規性から話題を集めるサントリーのビアボール。飲酒離れが進むといわれるMZ世代をメインターゲットにした商品だ。テレビCMのほかにも、TikTokでのプロモーションが功をなして話題に。狙い通り、MZ世代を中心として購買されているという。

 Z世代も含めてコアターゲットにした商品は、同社のビール部門でも過去にほとんどなかった試み。ビアボールは、サントリーがビール市場の生き残りをかけて挑んだ商品だ。未来の飲み手に向けた商品を開発しようと、ビール市場の復権策に特化したイノベーション部が立ち上がったのが2年前。同部署が企画した商品の第1弾となる。2022年11月に家庭用小瓶を販売開始すると、発売初週に複数の小売りチェーンで、他社ブランド商品も含めたビールカテゴリー内の売上金額がトップに。初速で勢いを付けた背景には、緻密に練られた情報設計があった。

 プロモーションは、商品開発の後半から宣伝部が開発の現場に入って考えていったという。ビアボールを開発するうえでイノベーション部が重視したMZ世代に特徴的なインサイトは、「モノ消費よりコト消費に重きを置く」点だ。物を買うよりも仲間と過ごすことに楽しさを感じる、自分自身を投影して共感できる物を買う、体験を共有したい、というように、物単体を重視するより、体験込みの商品を手に取る世代なのだ。ビールそのものをおいしいと思って飲みに行くより、何か楽しい体験を得られる場にビールがある、という順序が必要だった。

 700以上の商品案が挙がった中、試行錯誤の末に誕生したのが、自分好みで割り方を変えられるビアボールだった。割り方によってアルコール度数を調整できるため、お酒を飲む人もあまり飲まない人も同じ場で体験を共有できる。また、炭酸水以外の飲料を使って自分好みにアレンジできる楽しさもある。自分だけの“オリジナルドリンク感”は、商品への共感や愛着心にもつながる。

 「ハイボールが定着していったときも、同じような流れがあった。ウイスキーはそれまでは“おじさん”しか飲まないイメージだったが、ハイボールという飲み方を提案したことで、若者も一緒にジョッキで乾杯できるようになった。そうして若者層にも火がついたことが、ハイボールという大きなカテゴリーの創造につながったと思っている。アレンジで表情を変えられることで、幅広い世代の人たちが楽しめるようになったことが大きかった」。サントリー宣伝部の宮田晃浩氏はこう話す。

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