「D2Cの先駆け」的存在の1つとして、その戦略に度々注目が集まるのが男性用スキンケア・コスメブランドのBULK HOMME(バルクオム、東京・港)だ。同社は、2020年に国内マーケティングのさらなる強化などを目的に約15億円の資金調達を実施。21年には森岡毅氏率いる刀(大阪市)と資本提携を行い話題になった。そんなバルクオムが22年より本格始動し、大きな成果を出しているのはLTV(顧客生涯価値)向上施策だ。

バルクオムは、22年1月には累計出荷本数1000万本を突破した
バルクオムは、22年1月には累計出荷本数1000万本を突破した

 LTVとは、顧客1人当たりが生涯にわたって自社に与えてくれる収益を表す指標。顧客が継続的に購入してくれるかどうかを端的に示すものだ。

 バルクオムは22年1月に社内にLTV専門の分析・施策実行チームを設けた。そこでLTVが高い顧客の特徴を分析してさまざまな施策を試し、既に成果を出している。

 なぜ同社はLTV向上施策を強化しているのか。その理由について国内事業本部/マーケティングマネージャーの新開龍一郎氏は「競合が急増し、我々の独自便益を再構築する必要が出てきたため」と話す。バルクオムは13年の創業当時から、メンズスキンケア用品を中心に展開してきた。15年には現在の事業の柱となっているサブスクリプションサービス(定額課金)を開始。「当時は商品とビジネスモデルの両方が珍しく、それがバルクオム独自の便益だった。しかし近年、類似の商品・ビジネスモデルを採用するブランドが増加した」と新開氏は言う。

 年々デジタル広告費が高騰していることもバルクオムがLTV向上施策を強化する理由の1つとなった。1人当たりの顧客獲得コストが高騰すれば、必然的に既存顧客1人あたりのLTVをどう伸ばすかに焦点を当てる必要がある。

 加えて同社は世界一のメンズスキンケアブランドになることを目指しており、「そのためには、現在の主要顧客層である10~20代だけでなく、より上の年齢層まで広げる必要がある」(新開氏)とする。

バルクオムは「メンズスキンケアブランド世界シェアNo1」をめざし、海外にも積極的に展開している
バルクオムは「メンズスキンケアブランド世界シェアNo1」をめざし、海外にも積極的に展開している

 これらの理由から発足したLTV専門チームでは、まず、商品(定期コース)、決済手段、購入媒体、購入年代などさまざまな条件の中で、特にLTVが高い層を分析した。分析する中で特に大きな発見だったのは、サブスクの「配送サイクル」の変更経験が、LTVを高める大きな要素になっていたことだという。

 一般的なサブスクは、1ヵ月に一度の頻度で商品もしくはサービスが提供される。一方でバルクオムでは、商品が届く期間を30、45、60日の中で選択可能になっている。「届いた商品を使いきれない」という、サブスクの主な解約理由を解決するためだ。

 しかし、配送サイクルが切り替え可であることを知っている顧客はさほど多くなかった。一方で、自分で配送サイクルを変更している顧客は、F10(10回目の購入)以上のような長期で継続する傾向が強かった。実際に、配送サイクルを切り替えている顧客と切り替えていない顧客の1年間の平均LTVを比較すると、前者は後者の1.5倍高いという。そのためバルクオムは、定期コースでの購入回数が少ない層(1~5回)に対して、LINEやメルマガを通し、配送サイクルを変えられることをより頻繁に伝えるようにした。その結果、LTV向上に貢献できた。

LTV向上に効いた2つの施策

 LTV向上に効いた施策の中で、これはまだ序の口だ。特に大きく寄与した2つの施策がある。商品購入で付くマイレージ(ポイント)と交換できる非売品のラインアップ拡充と、サブスクで決められた商品以外からも届く商品を選択できるサービスの開始だ。

 22年3月に同社が行った調査によれば、この2つを利用している人が「役に立った・満足している」と感じている割合は、それぞれ「満足していない」という回答に比べ約2倍以上も多かった。

マイレージで交換できる商品のごく一部。特にどの商品がLTV向上に貢献しているのか(画像提供/バルクオム)
マイレージで交換できる商品のごく一部。特にどの商品がLTV向上に貢献しているのか(画像提供/バルクオム)

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