話題の経営者2人が「これからの日本」を緊急提言。キャンプ用品で多くのファンを抱えるスノーピークの会長兼社長である山井太氏と、各地で行列のできる飲食店を生み出すバルニバービを率いる佐藤裕久氏。全く異なる領域でビジネスを展開する両者だが、実はそれぞれ「地方創生」「地域活性化」を軸としたプロジェクトを加速させている。なぜ今、「地方」を目指すのか。2人と共に長きにわたりビジネスだけでなく、“サウナに入りたき火を囲む仲”でもある商業施設・まちづくりのプロ、松本大地氏が切り込む。
アウトドア・キャンプ用品で人気を集めるスノーピーク。ギアだけでなく、アパレルを拡充するなど、「野遊び」をキーワードに領域を広げている。そんな同社が力を入れているのが、全国の自治体と協力しての地方創生、地域活性化だ。2017年2月にスノーピーク地方創生コンサルティングを設立し、キャンプ場開発・再生に加えて、オリジナルの旅行ツアーの企画・運営など、今では50以上もの地域でプロジェクトを進める。もはやアウトドア用品メーカーという枠には収まらない。
一方、飲食店という枠組みを超えて地域、エリアの魅力拡大に乗り出しているのが、関東と関西を中心にピッツェリアやカフェ、レストランなど90店舗以上を展開するバルニバービだ。
同社は、1995年に大阪・南船場に1軒のカフェレストラン「アマーク・ド・パラディ」を出店したのが今のビジネスの原点。ふらっと人が立ち寄るような場所ではない問屋街であり、飲食店としては“バッドロケーション”ともいえる“場違い”なスポットにもかかわらず、口コミで人々が集まりいつしか繁盛店に。人の流れが変わり、周囲には様々なショップが出店し、まち自体が変わる端緒になった。東京・蔵前でも、大通りから1本入った裏通りのビルをリニューアルし、レストランや自社オフィスを構えた複合ビルを2010年につくり上げるなど、外食の枠を超えてまち自体に影響を与えている。
そんな同社が今、力を入れるのが、スノーピークと同じく地方創生だ。その象徴ともいえるのが、兵庫県・淡路島のプロジェクト。13年ごろに地元企業と連携してマルシェを実施したのを皮切りに、19年4月には淡路島西海岸沿いにレストラン「GARB COSTA ORANGE」を出店し、瞬く間に行列店となった。21年には、遊歩道を整備し、宿泊施設やラーメン店、カフェ、回転ずし店などを相次いで開業。エリア全体の開発を加速させている。23年春には、次のエリアとして島根・出雲への進出も予定している。
今回は、スノーピーク代表取締役 会長兼社長執行役員の山井太氏とバルニバービ会長の佐藤裕久氏、そしてこの2人と親交の深い、商い創造研究所(東京・千代田)の代表である松本大地氏を交え、地方創生へ力を入れる理由、そして課題、地域で活動することへの思い、これからのビジネスの在り方を議論した。松本氏は、全国各地の商業施設や地域開発のコンセプト立案、コンサルティングを多数手掛け、最近では盛岡市の盛岡バスセンターの再開発にも携わる、商業を軸とした地方創生、地域活性化のプロフェッショナルだ。3人は異なる事業領域を持ちつつも、プライベートでも親交が厚く、たき火を囲んで語り合うこともあるという。本音を聞き出した。
スノーピーク代表取締役 会長兼社長執行役員
バルニバービ会長
「僕はかなり焦っています」 そう語る訳
――皆さん3人とも、地方創生に取り組んでおられ、地域に寄り添った活動も目立ちます。多様な地域を見てきた松本さんが感じる、スノーピークとバルニバービの取り組みの共通点や面白さは。
商い創造研究所の松本大地氏(以下、松本) 僕は、まちづくりの仕事と商業施設をつくる仕事の両方を行ってきました。その中で感じたのは、地方には課題はあるけれども、やり方次第でとても大きな伸びしろがあるということです。
(バルニバービの)佐藤さんにしても(スノーピークの)山井さんにしても、社会課題を価値に転換していく力があります。社会課題を見つけ、それを自分たちの強みを生かして解決していく。それも思わぬ発想で、どんどん実現していく力があると思います。
スノーピークの山井太氏(以下、山井) 僕はキャンパーなので、キャンプが持つ力を信じています。世の中が高度化していく、文明化が進んでいく中で、どうしても人間的に負の部分が見え始めてきていると、キャンパーという立ち位置から感じます。ここが社会課題であると思っていて、社会がブラックボックス化し、リアルな体験も減る中、人間性を回復させることが重要だと思います。
キャンプで考えると、当然、自然の中に行くわけですから、自然が豊かな地方がフィールドになります。キャンプ場を整備すれば、新たに人が地域へ行くきっかけにもなりますし、経済効果も生まれます。結果として、地方創生につながるという認識です。
バルニバービの佐藤裕久氏(以下、佐藤) 山井さんがどう答えるのか、気になっていました。でも、一言ではっきりしました。「僕はキャンパーなので」という一言で。社会課題と向き合うために事業をやっているというわけではない。結果として、社会課題の解決につながるという自然な流れですね。山井さんらしいと思いました。
実は僕の場合は少しだけ違っていて、もう少し焦っているんです。日本における生活がこれからどうなっていくんだろう、という課題感を持っています。国が成立する、人が生きていくために最低限必要なものは主に3つ。「食料」「エネルギー」「安全保障」だと考えています。
もちろん、教育や医療も大事なのは言うまでもありませんが、それ以前に上の3つが崩れたら成り立たないでしょう。このうちの前者2つは企業にも関連してくる。そして、危機が迫っているとしか思えないんです。飼料・肥料は高くなっていますし、世界的に人口が増えて輸入も難しくなっています。世界情勢の影響でエネルギーの確保も難しくなってきています。僕は、政治家ではないけれど、“食べ物屋”というレベルで何かこの事態を回避する、もしくはソフトランディングして、取り越し苦労にできるのではないかと思っているんです。
冒頭の質問にあった「地域に寄り添う」という言葉、それはどちらかというと上から目線だと思っています。そうではなくて、地域、地方にお邪魔しますという感覚。前述の課題をクリアしていくためには、どうしても地域の力が必要なんです。「あなたたちの持っている力、例えば耕作地、人(知見)、資源などを、どうか貸して下さい」という話なんです。
僕らは今、農業をやっています。それも、休耕地をお借りしてやっています。そして、もともと農業に従事していた方が農業指導をしてくださっています。もちろん代金はお支払いしていますが、外部から来た人間に対して、土地とノウハウを提供してくださっているわけです。
そうして生産物を生み出すことができ、僕たちが行きたくなるインパクトのある飲食店をつくることで、他地域から人を呼ぶことができるようになる。食という事業をベースにすることで、いろいろな地域で活動ができるわけです。
僕から見れば、地方を救うのではなく、地方がこれからの日本を救う力になると、思っています。偉そうに聞こえるかもしれませんが、地方創再生ではなく、日本創再生のつもりです。
商い創造研究所代表
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