Zホールディングス傘下にある「GYAO!」と「LINE LIVE」の2つの動画配信サービス事業が2023年3月末をもって終了する。GYAO! は無料見逃し配信、LINE LIVEはライブ配信として、それぞれ開始当初はトレンドの先駆け的存在だった。だが、動画配信市場が拡大した今、生存競争は激しさを増し、事業を統廃合する道が選ばれた。今回の撤退には、市場の現状を象徴する3つのポイントがある。
GYAO! とLINE LIVEがこれまで辿ってきた道のりから、動画配信市場の興隆を知ることができる。GYAO! は18年、LINE LIVEは8年、それぞれが動画配信サービスを開始してから現在までに構造は大きく様変わりした。1つめのポイントはこの変化の実態にある。
動画配信サービスは消費者優位の時代に
GYAO! のサービスが始まったのは市場黎明(れいめい)期の2005年だった。当時は違法動画サイトがはこびり、公的に番組コンテンツを配信するための権利処理は今以上に手間がかかった。そんな時代に、もともとUSENが映画やドラマ、アニメ、バラエティー番組を正規で配信するサービス事業として始めたものだった。挑戦的な試みであり、動画配信時代を見据えた先見性があった。
だが、著作権処理に対するコスト増などを要因に赤字が続く。立ち上げから4年目の09年にGYAO!は約5億円でヤフーに売却され、運営母体が変わるかたちで事業が継続されることになった。時代背景としては、モバイル向けの動画コンテンツに注目が集まり始めたころ。エイベックスグループとNTTドコモによる「BeeTV」(2017年に終了)が立ち上がった時期とも重なる。動画配信の主戦場がモバイルにも広がり、GYAO! の競争相手は徐々に増えていった。
15年に入ると、「動画配信元年」の波が来る。業界最大手のNetflixとAmazonの「プライム・ビデオ」が日本に参入し、またGYAO!と同じく見逃し配信を売りにする「TVer」のサービスも始まった。LINEがリアルタイム配信のLINE LIVEのサービスを始めたのもこの年だ。プレーヤーが増えたことをきっかけに、動画配信市場は成長期に入っていった。
そして爆発的に市場が広がったのがコロナ禍1年目の20年だった。Netflixの韓国ドラマ『愛の不時着』が社会現象化し、TikTokのインフルエンサーが話題になった。小学生が最もなりたい職業にYouTuberが選ばれるのも、もはや定番となっている。サービスそのものよりも“作品”や“人”に注目が集まる消費者優位の時代を表す。これに対して、GYAO! とLINE LIVEは牽引力のあるコンテンツが足りないとも言える状況だった。
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