老舗手帳メーカーの伊藤手帳は、長年にわたって手帳の下請け製造を主力事業としてきたが、2012年から自社ブランド「ユメキロック」を展開。数々のユニークな商品を送り出してきた。前編では、マーケティングを支える仕掛けとして消費者の本音に触れる「モニター座談会」を紹介。後編では、手帳愛用者の裾野をZ世代に広げるために実施している、学生参加の共同開発プロジェクトを追う。Z世代を巻き込んだ商品開発の実態とは? 苦労と秘訣を探った。

▼前編はこちら 名古屋の老舗“下請け”手帳メーカー躍進 10万部ヒットの企画術
老舗手帳メーカーの伊藤手帳は、Z世代との共創プロジェクトを積極的に行っている。その理由、そして狙いは? 上写真は学生たちと手帳の商品仕様について打ち合わせする様子(伊藤手帳社内にて)
老舗手帳メーカーの伊藤手帳は、Z世代との共創プロジェクトを積極的に行っている。その理由、そして狙いは? 上写真は学生たちと手帳の商品仕様について打ち合わせする様子(伊藤手帳社内にて)

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が盛んに推進されている昨今だが、伊藤手帳の代表取締役社長・伊藤亮仁氏によれば、いわばアナログツールの一つに当たる手帳は市場規模が横ばいで推移してきた。感覚的に読み書きができる手帳は、デジタルツールとは別物として扱われているとのことだ。

 2020年に行われた伊藤手帳の調査によると、約9割の回答者がスケジュール管理にデジタルツールを使用しているが、そのうち半数以上が紙の手帳を併用していた。デジタルツールが普及してもアナログな管理方法には手放しがたい魅力があるというわけだ。このように底堅い需要を保っている手帳業界だが、伊藤氏は展望について警戒を緩めていない。

 「市場規模の落ち込みが少ない一方で、手帳業界は長きにわたって頭打ちの状態です。高校生以下の授業もタブレットPCで行われるようになり、若年層にはますますデジタルツールが浸透しています。このような現状を踏まえれば、底堅い需要に甘んじてはいけないと思います。新たな成長の青写真を描く必要があります」と語る。デジタルネーティブとされるZ世代に手帳の魅力を伝えるため先手を打とうというわけだ。

 そこで、伊藤手帳は学生参加の共同開発プロジェクトを推進している。キャリア教育の一環として商品開発のプロセスを学生に開放する一方で、Z世代の本音に迫ることが狙いだ。

共同開発プロジェクトでは学生たちが商品企画に入る前に、伊藤手帳による講義の時間がある。座学によるマーケティング講座に加えて、手帳について掘り下げて考えてもらうためにワークショップが行われた。Z世代が手帳に抱いている本音が続々と集まった
共同開発プロジェクトでは学生たちが商品企画に入る前に、伊藤手帳による講義の時間がある。座学によるマーケティング講座に加えて、手帳について掘り下げて考えてもらうためにワークショップが行われた。Z世代が手帳に抱いている本音が続々と集まった

Z世代向け商品開発の秘策 共同開発を大学に提案

 21年、伊藤手帳による学生参加の共同開発プロジェクトが、愛知大学キャリア支援センターの協力を受けてスタートした。「愛知大学キャリア支援センターはキャリア教育を目的に協働先となる企業を求めている」というメッセージが、日経産業新聞に掲載されたことが端緒を開いた。

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