SNSマーケで成果を出したいのは、米国企業でも同じ。製品やサービスのファンを獲得するため、TikTokのアカウントを立ち上げて動画を配信しているが、なかなか成果が出ない……。そんな悩みを持つマーケターはどう改善すればいいのか。米国の語学学習アプリ「Duolingo(デュオリンゴ)」でフォロワー数を1年あまりで100倍以上に拡大させたZ世代マーケターにその秘訣を聞いた。

語学学習アプリを展開する米デュオリンゴは、フクロウのキャラクター「Duoくん」が登場するTikTok動画を多数配信している
語学学習アプリを展開する米デュオリンゴは、フクロウのキャラクター「Duoくん」が登場するTikTok動画を多数配信している

 お願い、他の誰かとは恋をしないで――。米国の人気歌手テイラー・スウィフトが歌い上げる切ないラブソングに合わせて、緑色のフクロウの着ぐるみがガラス面にもたれかかり、膝から崩れ落ちていく。カメラはズームインして、圧力でゆがんだフクロウのくちばしを写す。画面には「語学の勉強をせずにグーグル翻訳を使ってしまうあなた」という文字がある。

 580万の「いいね」を獲得している12秒のTikTok動画は、米デュオリンゴのアカウントが配信したもの。フクロウのキャラクター「Duoくん」が登場してコミカルな動きを見せる。TikTok上では、流行している曲の歌詞や「ミーム(ネット内で人気となっている言葉のフレーズや画像)」にシンクロする形で、歌まねや喜怒哀楽などのしぐさを見せる動画が人気を集めている。Duolingoのアカウントが配信するTikTok動画も、その文脈に沿った形の動画が多い。

Duolingoアカウントの動画例。TikTok内部で許可された楽曲を利用するなど、法務部門と相談しながら著作権に問題のない形で動画を制作しているという

 TikTokの画面をスワイプしていくと、若者の語りやダンスの中に突然緑色のフクロウが登場する。流行曲に合わせ、ちょっと過激なスラングや映像加工のフィルターを交えてアピールしてくる。その異質さで「これは何だろう」と、つい目をとめてしまうというわけだ。

 同社は2021年2月にTikTokアカウントを開設した。当初はネーティブスピーカーが使う便利なフレーズといったお役立ち動画を配信していたものの、視聴数は伸び悩んでいたという。そこで21年9月末、Duoくんによる「面白動画」の路線転換に踏み切る。その効果は一気に現れ、5万人程度だったフォロワーが1カ月後に約100万人となった。100万再生のヒット動画を連発し、現在は570万人のフォロワーを獲得している。

TikTok上で商品価値アピールは意味がない

 若者向けの面白路線への転換を担ったのは、現在24歳、自らもZ世代のザリア・パーヴェズ氏だ。大学卒業後の20年6月にDuolingoに入社し、マーケティング部門に配属となった。21年9月にTikTokが10億人ユーザーを突破したと発表したことを受け、もっとTikTokを活用すべきだ、と会社に提案したという。InstagramやFacebookでSNS(交流サイト)マーケを展開する企業は多いが「まだTikTokはどのブランドも勢力を拡大できていない新しい空間。だからこそTikTokのユーザーを連れてくることはビジネス戦略で大きな意味がある」(パーヴェズ氏)と考えた。

米デュオリンゴでTikTok動画を担当するグローバルソーシャルメディアマネージャーのザリア・パーヴェズ氏
米デュオリンゴでTikTok動画を担当するグローバルソーシャルメディアマネージャーのザリア・パーヴェズ氏

 なぜ当初の「お役立ち動画」では成果が出なかったのか。TikTok上では「人々は楽しみたい、楽しませたいと考えており、商品価値にはあまり関心がない」(パーヴェズ氏)と分析する。製品やサービスのプロモーションの一環として考えると、つい商品価値に直結する内容を訴えたくなってしまうところだが、ユーザーはそこに興味を示すわけではない。有益な情報を入手するなら、TikTokではなく、ネット上のレビューなど別の場所を探せばいいと考えている。だからこそ「楽しさ」に振り切った動画へと方向性を変えた。

 とはいえ、若者に楽しいと感じてもらえる動画をつくり続けることは簡単ではない。パーヴェズ氏に聞いた4つのポイントを紹介しよう。まず「(1)TikTokユーザーの文化と言葉を理解すること」。自然な形でZ世代の言葉を盛り込むことで「このブランドには自分の意見を聞いてもらえる」「自分に関係がある」と感じて共有したいと思うようになるという。正直、40代おじさんである筆者は英語圏の若者ネット文化に通じておらず、何が面白いのか理解できない動画も複数あった。そうした世代間のギャップがあるほど、若者の琴線に触れるのだろう。パーヴェズ氏は、トレンドをつかむために1日4時間ほどはTikTokをチェックし、休日にもプライベートで楽しむためにTikTokを利用しているという。

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