ドラッグストアチェーンのキリン堂(大阪市)は2021年3月から、自社の購買データを基にした広告事業、すなわち「リテールメディア」に本腰を入れている。さまざまな広告主の商品の施策を実施した結果、低認知かつ価値が明確な商品ほど効果が見込める傾向を導き出した。半面、認知度の高い商品は効果が低いこともあるという。約2年間の事業展開で成果と課題が浮き彫りになった。
マツモトキヨシグループ、サッポロドラッグストアー、ツルハホールディングスなどドラッグストアは、「リテールメディア」と呼ばれる、小売りの持つ購買データを用いた広告事業に積極的に取り組む業態の1つだ。店舗数の多さ、食品にまで拡大する豊富な品ぞろえ、スマートフォン向けにアプリ化したポイントカードを軸に取得した購買データなど、広告事業を展開しやすい素地が整っていることがその理由として挙げられる。
キリン堂も、リテールメディアに先進的な一社だ。同社は関西を中心に398店舗を展開する中堅ドラッグストアチェーン。21年3月にリテールメディア「K.ads(ケーアズ)」の本格展開を始めた。K.adsはキリン堂が蓄積する購買データなどを活用したデジタル広告の配信、210万ダウンロードのアプリへのクーポン配信、店舗のサイネージを用いた店舗販促、メールマガジンなどを組み合わせた、細やかなターゲティングを可能とした広告サービスだ。キリン堂が扱う商品のメーカーが主な広告主となる。
リテールメディアの開発を主導した経営改革室長の寺西廣行氏はメーカー出身。ECのプラットフォームが販売の場としてだけでなく、売場そのものがメディアとして扱われる実態を知った。そこに実店舗を持つ小売りに存在するビックデータの活用と、メディアとしての価値創造を掛け合わせることの可能性に目をつけたことが、リテールメディアのアイデアの源泉。「実店舗を持つ小売りの購買データを活用すれば、広告事業を展開できるのではないか」(寺西氏)と考えていたという。キリン堂に転じた後、アプリの利用者増によるデジタル上での接点や、既存の広告媒体とデータ連係した広告配信などの仕組みの整備により、寺西氏の脳内で描いていた構想の実現が可能になった。
特にローカルマーケティングの支援という文脈で、広告主からの需要は高いと踏んだ。キリン堂は関西圏での存在感が強い。「取引先のメーカーは既存の購買データで関西圏でのシェアが低いことが分かっていれば、ローカルに特化したマーケティングを実施したいと考えるはず」(寺西氏)。そのとき、キリン堂が広告事業を展開していれば、出稿ニーズはあると考えたわけだ。こうした発想で20年3月からリテールメディアの実験を始め、事業展開が可能だと判断した21年3月からサービス化して、本格展開を始めた。
約2年間の事業展開で、メーカーと効果検証の試行錯誤を続けた。これまでに数十社と広告施策に取り組んできたという。カテゴリーは美容品や食品が中心だが、今後ヘルスケア領域にも拡大する方針だ。
隠れた商品を小売り視点で顧客に提案
各社との取り組みの中で、効果を出すためのポイントとして浮かび上がったのは「商品選定」だ。K.adsはキリン堂が主体となって、広告主の商品を推奨する広告サービスとなっている。棚に並んでいても、顧客が気付いていなかった商品との出合いを広告を通じて創出することで購買に結び付きやすくなる。付加価値が明確ではあるものの認知度が低い商品は、キリン堂のリテールメディアを通じて顧客に提案することで「売り上げが飛躍的に増加していく事例はある」と寺西氏は明かす。
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