サッカーW杯カタール大会も残すところ決勝戦と3位決定戦の2試合のみ。決勝はアルゼンチン対フランス、3位決定戦はクロアチア対モロッコの組み合わせになった。AI(人工知能)を用いた勝敗予測、優勝国予測の精度はどうだったか? データサイエンスの可能性と限界を検証した。

AIを活用したW杯優勝国予測、大本命のブラジルは準々決勝で姿を消すことに
AIを活用したW杯優勝国予測、大本命のブラジルは準々決勝で姿を消すことに(写真/Shutterstock)

 今大会では、日米2つのWebメディアがAIを用いた勝敗予測、優勝国予測を公表している。米国の著名な統計学者、ネイト・シルバー氏が運営する「FiveThirtyEight(ファイブサーティエイト)」と、“記者ゼロ人の通信社”の異名を持つ報道テックベンチャー、JX通信社(東京・千代田)が運営するニュース速報メディア「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」だ。

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 両メディアとも、大会開始直前時点で優勝の最有力候補にブラジルを挙げていた。ファイブサーティエイトはブラジルの優勝確率22%でトップ。JX通信社も同12.18%でトップと予測していた。“優勝国当て”という点では既に予測ははずれている。一方、サッカー好きアイドルとして一躍名を挙げた日向坂46の影山優佳は、大会開始前(22年11月19日)時点で優勝をアルゼンチンと予想していた。では、これをもって「AI予測は当てにならない」「データサイエンスの敗北」なのか?

ファイブサーティエイトとJX通信社のW杯優勝確率ランキング
ファイブサーティエイトとJX通信社のW杯優勝確率ランキング
出所:FiveThirtyEight「2022 World Cup Predictions」、JX通信社「NewsDigest」

 上図は、大会開始直前時点の両メディアの優勝確率ランキングである。決勝進出の2カ国を黄色、ベスト4進出の残り2カ国をオレンジ、ベスト8進出の残り4カ国を黄緑、決勝トーナメント初戦で敗れた8カ国を水色で表示している。1位ブラジル以下の並びは異なるが、類似している点がある。

・ベスト4に残った4カ国のうちアルゼンチンとフランスを4位以内に予測
・ベスト8に残った8カ国のうち6カ国を8位以内に予測
・4~8位の優勝確率が混戦で、9位と「断層」がある

 両メディアとも、「ベスト4当て」では2勝2敗、「ベスト8当て」では6勝2敗で並ぶ。4強予測に2カ国しか残らなかったのは残念だが、8強予測で6カ国的中は、「ジャイアントキリング」というワードが連日SNSで飛び交った大会でありながらも、それなりの精度があったと言ってよさそうだ。

 ファイブサーティエイトの優勝確率上位8カ国のうち8強に残らなかったのは、決勝トーナメント初戦でモロッコにPK戦の末敗れたスペイン(2位)と、日本に敗れてグループEを突破できなかったドイツ(6位)。JX通信社の優勝確率上位8カ国のうち8強に残らなかったのは、同じくスペイン(6位)と、クロアチアに勝ち点1の差でグループFを突破できなかったベルギー(7位)だった。この3カ国はクロアチアと日本に翻弄(ほんろう)された格好だ。特に大本命視されていたブラジルを破ったクロアチアは、今大会の台風の目といっていい存在だった。

 では両メディアはクロアチアをどう見ていたか? ファイブサーティエイトは優勝確率2%で12位、JX通信社は同4.11%で10位。順位で大差はないものの、ドイツを「断層」下の9位、クロアチアを10位としたJX通信社の予測は見るべきものがある。

 ビッグサプライズとなった準々決勝のブラジル対クロアチア戦。両メディアの試合直前予測は、ファイブサーティエイトがブラジルの勝利確率77%、JX通信社は同61%。双方ともブラジル優勢としながらも、勝利確率の数字は15ポイント超の差が開いていた。ちなみに同日行われたアルゼンチン対オランダ戦は、ファイブサーティエイト、JX通信社ともにアルゼンチンの勝利確率58%と算出していた。JX通信社の方がクロアチアの勝機を見いだしていたと言える。JX通信社で「2022サッカーW杯 勝利確率&優勝国AIシミュレータ」の開発をリードした、上級執行役員兼CXO(最高ユーザー体験責任者)の細野雄紀氏と、執行役員データアナリスト・情勢調査事業責任者の衛藤健氏は次のように説明する。

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