4年に1度の祭典、サッカーワールドカップ。この特別な時期を狙って、多くの企業が広告キャンペーンを打つ中、日本マクドナルドは一風変わったテレビCMを放映。過去にタイムスリップした岡田准一が、当時から片思いしていた女性との淡い記憶を思い返すラブストーリーに仕上げた。スポーツの大会といえば熱狂や感動のイメージが強いが、なぜ日本マクドナルドはあえてエモーショナルな映像を制作したのか。
2022年11月20日からカタールで開催されているFIFAワールドカップ(以下W杯)。日本は惜しくもベスト16で敗退したが、1次リーグでは強豪国のドイツとスペインにジャイアントキリングを見せるなど、十二分な盛り上がりを見せた。
4年に1度のスポーツの祭典に、多くの企業がW杯を絡めたキャンペーンや広告を展開する中、日本マクドナルド(以下マクドナルド)も独自のバーガーを期間限定で発売。歴代の開催地をイメージし、02年の日韓大会にちなんだ「こく旨かるびマック」、14年ブラジルの「ワイルドビーフバーガー オニオンリング&チーズ」、22年カタールの「ケバブ風チキンバーガー」を売り出した(すでに販売は終了)。
岡田准一が高校生にタイムスリップ
限定バーガーの発売に合わせ、マクドナルドはテレビCMを放映。俳優の岡田准一と仁村紗和(さわ)を起用し、「時をかけるバーガー」編と題したドラマ仕立ての作風に仕上げた。
「時をかけるバーガー」編は、30代会社員という設定の岡田が、上司に頼まれて3種類の限定バーガーを買ってきたシーンから始まる。続けて岡田が、こく旨かるびマックを1口食べたその瞬間、日韓大会が開催された02年にタイムスリップしてしまう。
20年の時を遡り、30代から18歳の高校生に若返った岡田。タイムスリップした世界はサッカー部の部室で、岡田は戸惑いながらも練習のためグラウンドへ向かう。すると当時から思いを寄せていた、同級生の仁村の姿が視界に。ちょうどその日は仁村が転校する日で、岡田は気持ちを伝えようと仁村の自宅へ急ぐが、あと一歩のところで間に合わず……。
失意に暮れる岡田だが、手に持っている紙袋には、まだ2つのバーガーが残されている。そこで岡田は、仁村と再会したのが14年だと思い出し、ワイルドビーフバーガーを頬張る。すると時は14年に進み、W杯の試合が放映されているパブリックビューイングに舞台が移る。岡田は群衆の中に仁村を見つけて接触を試みるが、仁村には連れの男性がいた。そこで岡田は「また会えるかな? 22年にここで」と伝え、最後に残ったケバブ風チキンバーガーをかじる。
そして岡田は22年に戻り、会社のオフィスに。ちょうどニュースでW杯が開幕したことを知る岡田は、再びパブリックビューイングが開催されている場所へと向かう。そこで無事に仁村と再会を果たし、岡田の20年越しの恋が動き出しそうな気配を感じさせて映像は終わる。
W杯を題材にした映像にもかかわらず、「時をかけるバーガー」編は、映画を見たようなストーリー性のある演出となっている。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を思わせるタイムトラベルという設定に、青春感満載のラブストーリーを乗せて、それでいて作品内にW杯と限定バーガーをうまく絡めている。
通常、W杯のようなスポーツの祭典に広告を関連付けるなら、「熱狂」「興奮」「感動」といったストレートなテーマのほうが、視聴者に伝わりやすいはずだ。しかし、マクドナルドはそれらのテーマから離れ、凝った設定かつ物語性の濃い作品に仕上げている。あえてサッカーの話題を前面に出さず、エモーショナルな内容にしたのはなぜか。
制作陣の電通zeroのクリエイティブディレクター兼CMプランナー・佐藤雄介氏と、マクドナルドナショナルマーケティング部の小嶌伸吾氏の2人に話を聞いた。
この記事は会員限定(無料)です。