人気声優の声で起こしてもらえる――。そんな宿泊体験サービスがヒットしている。モーニングコールやウエルカムコールを手掛けるのは、今をときめく人気声優らだ。2022年4月の第1弾販売時には、1室あたり3万5000円(税込み)の宿泊プラン、25組50人分がわずか28秒で完売した。反響を受け、同年10月には対象部屋数を8倍に増やし、単価も2倍近くにして第2弾を展開。第1弾の約4倍の売り上げになった。
声優の声を聞くことで、“耳から幸福になれる”。そんな意味が込められた宿泊イベント「耳福(みみふく)ホテルプラン」を仕掛けるのは、auコマース&ライフ(以下 auCL)だ。同社は、食品、アパレルをはじめ、宿泊券などさまざまな商品を販売するオンラインショッピングサイト「au PAY マーケット」を運営している。
耳福ホテルプランは、「軽井沢倶楽部ホテル軽井沢1130」(群馬県嬬恋村)など、既存ホテルを活用した特別宿泊プラン。宿泊者がフロントで声優の声が収録されたCDを受け取ってその場で流すと、声優が“ホテルコンシェルジュ”さながら、宿泊者の名前を呼んでウエルカムコールをしてくれる。CDには他にも、寝る前に聞くことを想定した「おやすみコール」や、寝起き用の「モーニングコール」などが収録されている。
これまで起用された声優は2人。1人は、アニメ『うたの☆プリンスさまっ♪』の美風藍役や、人気ゲーム『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』シリーズのジオルド・スティアート役で知られる蒼井翔太。2人目は、アニメ『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己役や、『ハイキュー!!』の西谷夕役などを担当した岡本信彦だ。
2人とも絶大な人気を誇る声優だが、このイベントの興味深いところは、いわゆるタレントのファンイベントのような、声優とファンが直接交流するイベントではないところだ。あくまで接点は、収録済みの「声」のみ。しかし、これが初回、2回目とも多くのファンを引き付けるヒットイベントとなった。その理由に迫った。
「声優ファンには、購買力があるのでは?」が原点に
auCL が、au PAY マーケットで体験型サービスの提供を始めたのは21年。当時新型コロナウイルス禍による外出自粛などで宿泊施設が打撃を受けていたことを受け、au PAY マーケットでは、施設の空室在庫を埋める目的で体験型サービスの提供を開始した。
その際、宿泊費を割り引くなどお得感で潜在ユーザーを引き付けるのではなく、施設がしっかりと利益を確保できるよう、定価で施設の魅力を伝えられる方法を検討。その結果、近年人気声優のメディア進出が進んでいることに着目し、声優の「声」を生かした宿泊プランを提供することになった。
ホテルの客室で声優起用の企画を行うことにした理由は、2つある。1つは、人同士の物理的な接触を避けられること。新型コロナ禍では大勢が集まるイベントや、タレントと直接接触する企画を行うのは現実的ではないが、耳福ホテルプランは、個室である客室と収録済みの音源を利用することもあり、そうした接触を避けられる。
もう1つは、声優に対するファンのエンゲージメントが高いことだ。いくら新しい企画をスタートしたとしても、まずはau PAY マーケットで体験型サービスを行っていると知ってもらえなければ、宿泊プランの購入にはつながらない。そこで、ファンのエンゲージメントが高い声優を起用することで企画がファンに届き、サービスの認知を高められるのではないかという狙いがあった。
例えば今回の企画で起用した声優の岡本信彦は、Twitterのフォロワーが49万人を超える(22年12月6日時点)。驚くことに、「おはよーーー!」とツイートするだけで、1万件以上の「いいね」がつく日もあるという。
この人気を象徴するように、21年の流行語大賞には、「推し活」がノミネートされた。また、20年代からアイドルなど自分が好きな著名人、つまり「推し」のためにお金を使う「推し消費」が広がっており、「購買力のある人が声優のファンになってきているのも、(企画を考える上で)重要な指標の1つになった」と、auCLの事業推進本部 新規事業推進部 大森一摩部長は話す。
ただいくら声優に人気が集まっているからといっても、なぜその人を起用するのかという意義が必要だと大森氏は続ける。
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