東京社会人サッカーリーグ1部(J7)に所属するサッカークラブ「SHIBUYA CITY FC」は、「渋谷からJリーグを目指す」ことを目標に掲げ、Jリーグ参入を目指している。このチームの特徴は、下位リーグのJ7とは思えないビッグネームな選手や監督、コーチが並んでいることや、選手の就労や収入面でも、既存のサッカークラブとは異なる特色を出していることにある。それだけではなく、ビジネスモデルにおいても他のチームとは異なる仕掛けがある。実は同チームを率いるのは元スタートアップの経営者。「スタートアップ式経営」によって観客数を増やしている。

SHIBUYA CITY FCのWebサイトトップページ
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 SHIBUYA CITY FC は、2014年に「TOKYO CITY F.C.」(21年に改名)として創立された東京都渋谷区をホームタウンとするサッカークラブだ。現在プロリーグの頂点「J1」から数えて7番目にあたる「J7」に相当する東京社会人サッカーリーグ1部に所属しながら、Jリーグ(J1~J3までのプロリーグ)参入を目指して戦っている。

 SHIBUYA CITY FCは、FT(ファンジブル・トークン、代替可能なトークン)で収入を得るなど、そのビジネスモデルの新規性は、さながらスタートアップのようだ。実はSHIBUYA CITY FC 運営会社のPLAYNEW(東京・渋谷)で代表取締役最高経営責任者(CEO)を務める小泉翔氏は、もともとスタートアップの経営者。その経験やノウハウをSHIBUYA CITY FCの運営にも生かし、新しいビジネスモデルを構築している。本稿では、「スタートアップ式経営」ともいえるSHIBUYA CITY FCの取り組みを紹介していく。

ユースチーム出身の元スタートアップ経営者が率いるサッカークラブ

 PLAYNEWの小泉氏は、もともと「大宮アルディージャ」(現J2クラブ)のユースチーム(Jリーグ下部組織や地域・企業がスポンサーとなって運営するクラブ)出身者だ。残念ながらプロサッカー選手になる夢はかなわなかったが、その後新卒で大手ネット広告代理店のサイバーエージェントに入社。1年ほどで退職した後、TABIPPO(タビッポ、東京・渋谷)という観光事業を展開する会社を起業した。その間、14年に発足した、SHIBUYA CITY FCの前進チームに立ち上げメンバーとして参画した。

 発足当初は仲間うちで草サッカーを楽しむ趣味のチームだったが、当時からデザイナー、マーケター、スポーツビジネスの経営者など、バックグラウンドが異なるさまざまなメンバーが集まっていた。いつしかメンバーは、自分たちの経験を持ち寄ることで、「日本のサッカーをもっと面白くできるはずだ」という思いを抱き、Jリーグ参入を目指すことを決意した。

 Jリーグ参入を実現するのであれば当然、チームを大きく、かつ強くしていかなくてはならない。そして、チームの強化に欠かせない優秀な選手や監督の確保をするための収入源が必要になる。しかしSHIBUYA CITY FCは、まだスタジアムで試合をできるわけではないためチケット販売をはじめとする興行収入はない。そのため、自分たちなりのビジネスモデルを構築することで、Jリーグ参入を目指していくことにしたのだ。

渋谷の大企業やスタートアップがサポーター企業に

 まず、SHIBUYA CITY FCの収益構造を説明したい。グッズ販売については、基本的にはしていない。また、SHIBUYA CITY FCはホームゲームを公共施設で開催していることもあって、観客から入場料を取っていない。

 「例えば入場料が1人1000円だとして、500人来場しても50万円の収入にしかならない。それよりはとにかくサッカーに、SHIBUYA CITY FCに興味を持って会場に来てくれる人を増やしたい」と小泉氏は語る。スタートアップはビジネスモデルとして、短期的な収益よりも経済圏の拡大を優先することも多いが、SHIBUYA CITY FCとしてもその戦略を採用した格好だ。

 そのため、現在収入のほとんどは、いわゆるスポンサー収入と、後に説明する「FiNANCiE(フィナンシェ、ブロックチェーン技術を利用したトークンプラットフォーム)」を利用したトークン収入となっている。

 SHIBUYA CITY FCは22年12月現在、すでに200社を超える企業とパートナー契約を結んでおり、その数は日を追うごとに増加している。地域リーグとしてはかなりの数だ。スポンサーフィーは約1億円におよぶといい、これは「2つくらい上のリーグの予算感。3つ上のJFL(J4相当)になると2~3億円の規模になるので、今はそこを目指している」と小泉氏は語る。

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