そごう・西武が21年9月、西武渋谷店にオープンしたOMO(オンラインとオフラインの融合)ストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」。その仕掛け人である伊藤謙太郎氏は、「今の消費者はオンラインとオフラインの境界がどんどん曖昧になっている。デジタルが暮らしの中に入り込んでいるからこそ、リアルの力を増幅させることで新たな価値が見えてくる」と言う。

そごう・西武が西武渋谷店で展開している「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース)」。D2Cブランドを集合させた、いわゆるOMOストア
そごう・西武が西武渋谷店で展開している「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」。D2Cブランドを集合させた、いわゆるOMOストア

 百貨店の未来について、あちこちで厳しい話を聞く。平日の日中、百貨店を訪れると、客がまばらで販売員の立ち姿が目につく。地方をはじめ、都市部でも再開発に伴って百貨店が閉店する例が後を絶たない。しかもこれは、日本に限った話でもない。欧米の老舗百貨店が倒産あるいは売却、閉店を余儀なくされるといったケースが出てきている。

 一方、未来に向けて道を切り開こうとする動きもある。百貨店がもともと持っている利点を土台に、従来の枠組みを壊そうとしているのだ。その1つが、そごう・西武が西武渋谷店で展開している「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ。以下、チューズベース)」。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドを集合させた、いわゆるOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)ストアであり、百貨店として実験的な試みに挑んでいる。

 オープンして1年余り、訪れた客は約48万人に上り、業績も好調に推移している。何が魅力で、どのような工夫を凝らしてきたのか、CHOOSEBASE SHIBUYAディレクターの伊藤謙太郎さんに聞いた。

約180のD2Cブランドを集積した売り場

 チューズベースは西武渋谷店パーキング館の1階に位置し、約180のD2Cブランドを展開。アパレルや化粧品、食品、雑貨など、暮らしを取り巻くさまざまなものが並んでいる。

 百貨店の大半は「ライフスタイル提案」と言いながら、婦人服売り場の一隅にコスメや雑貨を置くといったレベルで、本来的な意味で暮らしを提案している売り場は少ない。なぜか。それはアパレルや化粧品、食品など、従来の売り場区分に準じて組織が分かれており、そこを横断した売り場や品ぞろえを組むのが難しいからだ。そんな中、チューズベースは規模こそ大きくないものの、ライフスタイルをしっかりと提案している。

 売り場の造りもちょっとユニークだ。コンクリート打ちっぱなし風の空間なのだが、小部屋がつながったような造りになっており、随所に窓のような穴が開けてある。小さな店が連なる街を巡って歩くような楽しさがあるし、一隅にカフェが設けられていて、ショッピングの前後にまったりすることも。従来の百貨店の売り場とはちょっと異なる過ごし方ができる。

 「今までほとんど百貨店に足を踏み入れたことがないお客様が、1日当たりおおよそ1000人から2000人くらい訪れています。TikTokやInstagramの撮影場所として使ってくれるお客様も多く、売り場の発信につながっています」と伊藤さん。実験的な試みは、確かな成果を上げている。

オンラインとオフラインの境界が曖昧に

 伊藤さんはもともと、広告代理店でマーケティング関連の仕事をしていた。「自分が分からないことを数値化したり、感覚的なことを定量化したりするのが好きだったのです」。感覚的な価値づけを旨としてきたファッションが、伊藤さんの興味の対象に入ってきたのは納得がいく話だ。

 その後、情報通信業界に転職し、流通の仕事に携わった。そこで、仕組みをうまく組み込めば可能性があるのにもったいない、中に入って変えてみたいと感じたという。そごう・西武に入社し、新規事業を担うことに。「新しい百貨店をつくるくらいの意志を持って臨んだのです」(伊藤さん)。だが、実体化させていくのは容易ではなかった。百貨店が持っている従来の枠組みを壊さないといけなかったからだ。

 筆者も、「百貨店は人が集まる場」「歴史と文化を備えた小売業」という概念を引きずっている“ギョーカイ人”はいて、そこにとどまっていても先は見えてこないと感じてきた。一方、若い人と話していて、「デパートが華やかだった時代の想像がつかない」「何屋さんかが分からない」といった声を耳にする。内部にある固定観念や枠組みと、外部である顧客の意識がズレているのは明らか。伊藤さんが新しい売り場をつくるには、内部にそのギャップを理解してもらう必要があったのだ。

 「今の消費者はオンラインとオフラインの境界がどんどん曖昧になっています。デジタルがすっかり暮らしの中に入り込んでいるからこそ、リアルの力を増幅させることで、新たな価値が見えてくるのでは。そこに小売りの可能性があると思ったのです」(伊藤さん)。外部を巻き込んだチームを組み、プロジェクトを進めていった。従来の枠組みにとらわれず、客観的な視点を持って進めることが肝要と感じたからだ。

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