欧州自動車メーカー大手のStellantis(ステランティス)日本法人のStellantisジャパン(東京・港)は2022年10月1日から、日本国内で「シトロエン」ブランドのフラッグシップモデル「C5 X」を販売している。色や素材、仕上げといったCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)デザインを担当したのは、Stellantisのパリオフィスに勤務している日本人デザイナーの柳沢知恵氏だ。
ステランティス Project Manager of Color and Trim Design
Center of Design Peugeot-Citroën
――「C5 X」はフランスでは2021年4月に発売しており、世界展開を続けています。デザインを手がけた柳沢知恵氏に、デザイン開発のプロセスや考え方に加えて、日本人デザイナーが海外で仕事をする際のポイントなどをお聞きしたいと思います。まずはC5 Xのデザインの特徴を教えてください。
柳沢知恵氏(以下、柳沢) C5 Xは高級セダンの雰囲気とステーションワゴンやSUV(多目的スポーツ車)の機能を併せたような車です。2016年の「パリ・モーターショー」で発表していた「シトロエン」ブランドのコンセプトモデルである「CXPERIENCE」に着想を得て開発しています。
CXPERIENCEのデザインでは、車内のダッシュボードに幾何学のレザーエッチングが施された柔らかいウッドを採用しました。C5 Xでも「木なのに柔らかい」という意外性を取り入れるべく、布で木目の表現に挑戦しました。
例えばインテリアでは加飾パネルで木目を表現したり、「ダブルシェブロン」と呼ぶシトロエンのロゴを幾何学的な連続パターンで大小さまざまな文様に表現したりしました。ダブルシェブロンは通常のステッチ用の機械では縫えないので、刺しゅう機を使っています。上質なレザーシートのダブルシェブロン模様が、インテリアのデザインテーマである水平ラインを強めていると思います。
車の色はC5 Xのユーザー層を想定し、太陽光の淡いフランスの市街地にもなじむグレーのニュアンスカラーを基調にしています。C5 Xはシトロエンのフラッグシップモデルなので、ブランドを象徴するアイコニックなCMFにこだわりました。
色と質感をどうイメージするか
――C5 XのデザインにおけるCMFのテーマは、どこから出てきたのでしょうか。
柳沢 最初は「上質」を起点に考えました。C5 Xに乗車するユーザー層とはどんな人か、ユーザー層が考える上質とは何か、それはどんな生活なのか、などと発想していきました。CMFチームの試みとしてワークショップを行ったこともあります。シトロエンにおける上質とはどんな感じなのかと、メンバーで想像しながら自由に絵を描いたりしました。個人で取り組む作業が多くなりがちなCMFチームですが、今回はチーム全体で議論し合う機会が増えました。
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