ファッションECサイト大手のZOZOが「売らない店」に参入する。2022年12月16日、東京・表参道にオープンする同社初の実店舗「niaulab by ZOZO(ニアウラボ)」では商品を販売しない。代わりに来店者に合ったコーディネートを、AI(人工知能)とプロのスタイリストがタッグを組んで提案。気に入ったコーディネートを実際に試着できる体験を通じて、「似合う」を提案する。その真の狙いは、顧客ごとの「似合う」という曖昧かつ定性的なデータの取得にある。ZOZOの澤田宏太郎社長にその真意を聞いた。
「皆さん、今日の洋服は自分に似合っていると感じますか」
niaulab by ZOZOの記者発表会に登壇したZOZOの澤田宏太郎社長は、そう来場者に質問を投げかけた。澤田氏は「似合っていないとは思わないかもしれないが、ドキッとする感覚は覚えたのではないか」と続ける。
ZOZOが顧客に向けて実施し、7万人から回答を得たアンケートでも、全年代の82%が「服を買ったり、着回しを考えたりするときに悩みがある」と答えている。Z世代ではさらにその比率が高まり、回答者の87%は悩みがあると回答した。このように、「『自分に似合う洋服』に自信を持っている層は、ファッション好きの中でも少ないのが現状だ」とZOZOのCDO室の大久保真登本部長は説明する。
「似合う」という感覚は非常に曖昧だ。自分で納得できるコーディネートをできたときの自己完結型もあれば、友人から褒められるといった第三者評価型もある。その似合うを見つける手段が確立されているわけではない。だが、データやスタイリストの知見を組み合わせることで、「似合う」の提案はできるはずだとZOZOは考えた。
ZOZOが新たに展開するniaulab by ZOZOで提供するのは、「似合うを届ける」をコンセプトにしたパーソナルスタイリングサービスだ。自分に似合うコーディネートに対して悩みを抱える層に、AIとプロのスタイリストが一人ひとりに合ったコーディネートを提案する。店舗では商品を販売しない。体験を通じて、似合うを見つけてもらい、洋服選びの幅を広げてもらうことを目指している。
完全予約制で接客時間は2時間の店舗
店舗への来店は完全予約制だ。まず、ZOZOがLINE上に開設する公式アカウントを通じて、来店を希望する日時の抽選に申し込む。当選した人に来店権が付与される。その後、LINEを通じて、ファッションで抱えている悩みなどに関するアンケートに回答する。このアンケートの回答結果は、事前に店舗で接客するスタイリストに共有される。
当日は、AIとプロのスタイリストが来店者に合わせて、それぞれコーディネートを提案する。独自開発したAI「niaulab AI」は、ZOZOが展開するコーディネート投稿サービス「WEAR」上の1300万超の写真から、来店者に合った3枚を導き出す。
一方、スタイリストは事前に共有されたアンケートなどを基に、知見を生かしてコーディネートを提案する。来店者はその中から、特に気に入ったものを選ぶと、店内にある約700点の商品を使って実際に試着できる。試着した後は、プロのフォトグラファーが記念撮影する。自分に似合うコーディネートを身にまとった写真が提供される。提案、試着、写真撮影まで、実に約2時間かけて体験を提供する店舗となっている。
「売ることを目的としないため、試着したからには買わなければならないという強迫観念にかられることなく、気軽に試着を楽しんでもらえる」と大久保氏は説明する。とはいえ、コーディネートを体験して気に入った商品は欲しくなるのが心情だ。そこで退店時に、ZOZO上にある試着した商品の販売ページのURLやスタイリングのポイントなどを記載したカードを手渡す。このカード経由でネットで商品を購入できる。
ZOZOはこれまでWEARを提供し、ECサイト「ZOZOTOWN」上に商品を使ったコーディネートを提案するコンテンツを掲載するなど、デジタル上での接点を通じて、顧客に着こなしの提案をしてきた。だが、「『似合う』の研究を重ねるほど、ネットの世界だけで完結するのは現状では難しいことが分かった」と澤田氏は言う。
消費者の服の趣味嗜好はもちろん、内面、顔、趣味など、さまざまな要素が組み合わさって、本人にとっての似合うコーディネートが決まる。そうした幅広い情報を基にコーディネートを提案するには、スタイリングのプロであるスタイリストが対面で話しながら提案し、実際に試着するという体験を提供する必要があると考え、niaulab by ZOZOの展開を決めた。
消費者視点で見れば、プロの知見を借りた新たなコーディネートの発見がniaulab by ZOZOで提供する価値だが、ZOZOとしての真の狙いは「似合うデータ」の収集にある。niaulab by ZOZOを通じて取得したデータを基にAIを学習させ、ECサイト「ZOZOTOWN」上などでより機械的に似合うコーディネートを提案できる仕組みづくりを目指す。そうして、データを軸にコーディネートを提案する対象範囲の拡大を狙うという。
とはいえ、似合うは定義が曖昧かつ定性的なデータだ。それをどのようにして、事業に使えるデータへと変えていこうとしているのだろうか。niaulab by ZOZOを通じて取得したデータの活用計画をZOZOの澤田社長に聞いた。
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