リテールメディア大研究 第7回

九州を中心にスーパーマーケットをチェーン展開するトライアルホールディングス(トライアルHD、福岡市)は、店内で利用するカートに広告を配信する実験に取り組んでいる。2021年に日本アクセス(東京・品川)、食品メーカーのカゴメと実施した実験では、購買データや店内の位置などを基に、配信する広告(クーポン)の割引額を変えて、一律配信した場合と効果を比較。データに基づく配信は、一律配信と比べて販促にかかるコストが7割減になったという。一体どのような仕組みなのだろうか。

トライアルHDが運営する一部のスーパーマーケットで実際に使用されている、セルフレジ機能付きタブレットを搭載したショッピングカート(通称:レジカート) (提供:トライアルHD)
トライアルHDが運営する一部のスーパーマーケットで実際に使用されている、セルフレジ機能付きタブレットを搭載したショッピングカート(通称:レジカート) (提供:トライアルHD)

 来店客は棚から牛乳を取ると、カートに取り付けられたタブレット端末のスキャナー機能を使い、商品バーコードをスキャンした。すると、タブレット端末に、牛乳売り場の近くにあるカゴメ「ラブレ」のクーポンが表示されたため、思わず対象商品に手を伸ばした――。

 トライアルHDは一部の店舗に導入している、セルフレジ機能付きタブレットを搭載したショッピングカート(レジカート)を活用した、リテールメディアの実験に取り組んでいる。レジカートとは、一言で言えば買い物かごとセルフレジが一体化したIoTカートだ。

レジカートに搭載されているタブレット端末の画面上に、複数のクーポンが表示される (提供:トライアルHD)
レジカートに搭載されているタブレット端末の画面上に、複数のクーポンが表示される (提供:トライアルHD)

 買い物客は入店時、カートに取り付けられたタブレット端末で専用のプリペイドカードを読み込むことで利用可能になる。利用客は棚から商品を取り、商品を買い物かごに入れる際に、顧客自身でレジカートに搭載されているスキャナーを使い商品のバーコードを読み込むと、タブレット端末の画面上に商品一覧と合計額が表示される。

 会計はレジカート専用のゲートで行う。ゲート通過時に、店員がカートの中身と端末に表示されている商品が一致しているかどうかを数点確認する。確認後、ゲートを通過すると入店時に読み込ませたプリペイドカードの残高から、自動的に合計額が引き落とされる。ゲート付近にはプリペイドカードに残高をチャージする機器が設置されているため、支払時に残高が不足していてもその場でチャージして支払える。

 リテールメディアの取り組みには、「ID-POS」と呼ばれる顧客ごとに購買データ管理する仕組みが重要になる。ID-POSとは、一人一人の顧客に固有のIDを割り振り、そのIDにひもづく形でさまざまなデータを管理する仕組みのこと。トライアルHDでは、レジカートを利用する際に顧客はプリペイドカードを読み込ませる必要がある。このカードには固有のIDが振られており、ID-POSの役割を果たしている。

 トライアルHDはレジカートをはじめ、これまで蓄積した270億件のID-POSデータを情報化し、独自開発したレコメンデーションのアルゴリズムがある。このアルゴリズムをレジカートへのクーポン配信に生かすのが、トライアルHD流のリテールメディアだ。AI(人工知能)が購買データなどを基にして顧客ごとに最適なおすすめ商品を選択し、レジカートに備え付けられたタブレット端末の画面に表示する仕組みだ。

 例えば、スキャンした商品に関連する商品のクーポンやおすすめ商品などがリアルタイムで画面上に表示される。「ある商品を買った(バーコードをスキャンした)ときにクーポンを出すことができる点がレジカートの強み。これは、アプリには無い機能だ」とトライアルカンパニーマーケティング部部長の野田大輔氏は独自性を強調する。

顧客が入店してから、クーポンが配信されるまでの流れ
顧客が入店してから、クーポンが配信されるまでの流れ

レジカートを活用した新たな広告配信の実験

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