米国の小売りや一部メーカー各社の間で、「重要顧客」をマーケティング戦略の要に置くようになってきていることは、以前に日経クロストレンドで紹介した通り。実際のリテールの現場でより高いレベルの顧客体験を生み出す試みは、どのように行われているのか? 前編に続き、食品小売業界のイベント「GroceryShop(グロッサリーショップ) 2022」に参加したIBAカンパニー(東京・新宿)の射場瞬氏が、米ロサンゼルス市内にある米アマゾン発のファッションに特化した、「Amazon Style(アマゾン スタイル)」の1号店視察リポートを通して、「重要顧客」の満足度を向上させる取り組み例について解説する。

米ロサンゼルス市内にオープンした「Amazon Style」の外観
米ロサンゼルス市内にオープンした「Amazon Style」の外観
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 米国で、ニューヨーク市と並んでリテールの変化が一番早く感じられるといわれているのが、ロサンゼルス市である。筆者は2022年3月と9月、各3日間、ロサンゼルス市内と郊外にて様々な地域と形態の店舗を比較しながら視察した。全体の印象としては、GroceryShop 2022内の多くのセッションで語られていた通り、「自社の重要顧客の体験を上げる」ことに対する努力や試みを、各社がスタートしていることだ。本稿では、その取り組みが分かりやすく感じられたAmazon Styleの例を説明したい。

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Amazon の新形態ストア、「Amazon Style」とは?

 Amazon Styleは、アマゾン初の、ファッションに特化した百貨店型のショップ。1号店は、22年5月25日、ロサンゼルス郊外の複合型ショッピングセンター「The Americana at Brand(アメリカーナ・アット・ブランド)」内にオープンした。

 The Americana at Brandは中央部に噴水があり、ロサンゼルスの青い空と心地よい気候が楽しめるオープン型のモールだ。高級感があふれ、比較的お金に余裕がありそうな若い買い物客の姿も目立つ。アマゾンがこのモールに出店したのは、こうした“購買力が高い30代以下の客”を「重要顧客」として狙ったからだろう。アマゾンはロサンゼルス店での体験をもとに今後もこの形態の店舗を増やしていくようで、Amazon Styleの2号店を米オハイオ州コロンバスに同10月18日にオープンした。

 1号店は、約2800平方メートル(847坪)の2階建てで、男女のアパレルを中心にシューズやアクセサリーも扱う。最大の売りは、アプリと40部屋もあるフィッティングルームを連係することで生まれる利便性が高い買い物体験ができることだ。

Amazon Style店内の様子。各商品の横に用意されたQRコードをアプリで読み込むことで商品情報をチェックしたり、試着希望商品を登録したりできる
Amazon Style店内の様子。各商品の横に用意されたQRコードをアプリで読み込むことで商品情報をチェックしたり、試着希望商品を登録したりできる
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 Amazon Styleはオープン日のかなり前から、「このような機能や仕組みを導入する」という情報公開をしていた。しかし、アマゾンのスマートストア「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」のような、アマゾンが初となるオリジナルで画期的な仕組みに関する発表は含まれていなかった。そのため、筆者のようにリテールテックを追いかけている人々にとっては、「何が新しいのか?」「前からあったテクノロジーを組み合わせただけじゃないか?」と感じる部分もあり、実際そうしたコメントもネットで見受けられた

 Amazon Styleが導入した試着室の仕組みは、「スマート・フィッティング・ルーム」として、米国のファッションブランド「Reformation(リフォーメーション)」が17年から、その他のブランドでも19年ごろから実店舗で取り入れている。つまりアマゾンは後発ともいえる。

 唯一、決済手段として、手のひら認証で支払えるペイメントの仕組み「Amazon One」を導入したという意味では先進性はあるだろう。しかし、Amazon Styleが提供する真の価値は、最新技術を提供することではなかったのだと、実際に買い物を体験してみて筆者は実感した。

 同店舗における最大のポイントは、「よりうれしい買い物体験をつくろうとしていること」にある。GroceryShop 2022で語られていたように、アマゾンは顧客が喜ぶ、ディスカバリー(新たな出合い・発見)がある体験づくりを自社が得意なオンラインでなく、実店舗でつくり出そうとしているのだ。期待値低く店に立ち寄った筆者だったが、こうしたアマゾンの心意気に、「アマゾンすごい!」と感じずにはいられなかった。

 ここからは筆者が実際に体験した、Amazon Styleの「利便性を上げる体験向上」と「(わくわくする)発見の体験向上」の2つを説明していく。

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