東洋水産の「赤いきつね緑のたぬき」といえば、CMの顔である武田鉄矢を思い浮かべる人も多いだろう。武田は1978年の1作目から出演し続けており、同一のCMに継続出演した期間で、ギネス記録に認定されているほど。2022年版のCMも快調だ。長年、同じタレントで同一商品を訴求し続けても、視聴者を飽きさせないポイントはどこにあるのか。制作陣を取材した。

2022年10月1日から放映された「赤いきつね緑のたぬき」の新CM。22年から新たにシソンヌじろう(お笑い芸人)が出演
2022年10月1日から放映された「赤いきつね緑のたぬき」の新CM。22年から新たにシソンヌじろう(お笑い芸人)が出演
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CMの連続出演年数でギネス記録に

 「あ~かいきつねと緑のた~ぬ~き」――。テレビをよく見る人なら、聞き覚えのあるフレーズだろう。東洋水産のカップ麺「マルちゃん 赤いきつね緑のたぬき」のテレビCMで、最後に流れるナレーションだ。

 マルちゃんの「赤いきつね緑のたぬき」は、発売年から現在に至るまで、45年間にわたってテレビCMを放映し続けている(赤いきつねが1978年、緑のたぬきが80年に発売)。この超ロングセラーのCMシリーズで欠かせないのが、メインキャラクターを務める武田鉄矢だ。78年の1作目からCMに出演し続け、これまで登場した作品数は、2019年時点で累計200本以上を数える。

 過去には戦車に向かって走ったり、海外で撮影したりと、体を張った役柄も多かった。近年もアイドルや戦国武将に扮(ふん)したりと、武田は様々な役柄を演じている。19年には「同じ俳優を起用したテレビCMを、最も長い間放映し続けている商品」として、ギネス世界記録に認定されたほどだ。

1978年からCMに出演し続ける武田。2022年のシリーズでは父親役を演じる
1978年からCMに出演し続ける武田。2022年のシリーズでは父親役を演じる
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 これほど息の長いCMシリーズだが、いまだ人気は衰えていない。2022年のシリーズも好調な出足を切った。このシリーズでは、武田鉄矢が父親役として、女優の麻生久美子が武田の娘役として、さらにお笑いタレントのシソンヌじろうが麻生の旦那役として出演。夫婦とその父親という、3人の日常を描いた設定となっている。

 シリーズ第1弾として、22年10月から放映された「夜食大作戦」編は、東洋水産の公式YouTubeチャンネルで再生回数が184万回を超えている(11月10日時点)。

30秒版の「夜食大作戦」編。再生回数は184万回を超えている(11月10日時点)

 普通に考えれば、40年以上にわたり同じ商品をPRし、そのうえ同じ武田を起用し続ければ、「ユーザーに飽きられてしまうのでは」といった懸念もあるはずだ。それでも東洋水産は手を替え品を替え、武田をキャラクターに立てたCMを放映してきた。

 CM制作を担当した、東急エージェンシー 統合クリエイティブプランナーの浦川瑞貴氏は、22年のCMシリーズのコンセプトを語る。

 「赤いきつね緑のたぬきは歴史ある商品なので、とにかく訴求内容や伝え方に鮮度を持たせていかないと、CMもマンネリ化してしまう。そこでトレンドに合わせつつ、これまでにない角度から商品の魅力を引き出せるよう模索した。また、これまではCMのターゲット層を比較的高めの年代に設定していたが、22年度版ではZ世代からミドル世代まで楽しめるように考えた」

 では実際、マンネリ化させず、若年層をはじめ幅広い世代に刺さるようにするためにどうしたのか。「鮮度を持たせていく」「トレンドに合わせる」とは、具体的にどういうことなのか。浦川氏が3つのポイントを挙げて解説する。

Z世代も見やすいようテンポ感を重視

 まず1つ目のポイントが、CMの前半部分でテンポ感を速くしたことだ。

 「Z世代を中心とした若年層は、映像をじっくり見るというより、早回しする傾向にある。YouTubeでも半数近くが早回しで視聴するといわれている中、若年層が飽きずに見てくれるよう、CMではカット数を多めにし、展開をテキパキと切り替えた」と浦川氏。

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