近年、企業のマーケティング活動では、顧客のデジタルデータをいかに活用できるかが課題となっている。一方で、企業活動の中でマーケティングの重要性が高まり、マーケティングを統括する「CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)」を設置する企業も増えている。デジタルファースト時代においてマーケターは何をなすべきか。そして、“世界標準”から見て日本のCMOは何が足りないのか。CMOコミュニティー「The CMO Club」の東京支部に所属する、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル デジタルアクイジション&ケイパビリティ担当副社長の友松重之氏、三井住友海上火災保険CMOの木田浩理氏、セールスフォース・ジャパンCMOの鈴木祥子氏の3人が議論した。前編・後編に分けてお届けする。
――近年、消費者はデジタルチャネルを中心とする購買行動に急速に移行しており、コロナ禍でそれが加速しました。そうした中、マーケティング活動における生活者へのアプローチも大きく変わってきています。
木田浩理氏(以下、木田) 私が日々実感するのが、そのアプローチがあまりにも多様化していることです。昔は、ダイレクトマーケティングといえば、主に顧客にメールを送ることを指し、それだけで反応があり成果を得ていましたが、今はSNSなど様々なツールがあり、状況が全く異なっています。また、若者層ではテレビを視聴する人が非常に少なくなり、代わりに見ているのはYouTube、TikTokなどの動画や、オンラインゲームの実況中継です。そうした40代以上の世代にはなかった行動が、20~30代では当たり前に増えてきているのです。
友松重之氏(以下、友松) そうした中で、どのようにそれぞれの生活者にリーチするのかを考える必要があります。ただ、実際に世の中で展開されているメディアプランは、残念ながらまだ旧態依然としている場合もあります。
木田 そうですね。例えば、広告の効果測定で、単純にテレビのGRP(延べ視聴率)を指標に使うというだけでは、多様化が進んでいる今は意味がありません。大切なのは、「ターゲットとなる世代がこのメディア(YouTubeなど)をこれだけの時間見ていて、数字的に効果が実証されている施策はこれだから行う」といった科学的な根拠があるアプローチです。しかし、そんなファクトがなく提案されるプランが少なくない。だからこそ、私たちマーケターが自分でそれを調べて、広告代理店と議論できる技量が必要になっているのです。
三井住友海上火災保険チーフマーケティングオフィサー
鈴木祥子氏(以下、鈴木) 昔はそうしたプラン作りは広告代理店に任せておけばよかったのですが、今は多様化が進み、ある程度内製化しないと、世の中の動きについていけないという事情もあると思います。
木田 我々の会社でも、将来的に消費の主役となるZ世代の行動を捉えるため、彼ら・彼女らとの座談会を何度か重ねています。その中で分かったことは、LINEは使われているものの、InstagramとSnapchatの2つをメインのコミュニケーション手段としている傾向にあるということです。2つに共通するのは、コミュニケーションが「1対N(多数)」であること。そして、後者の特徴は自分の投稿が24時間後に自動的に削除されることです。つまり、そこから見えてくるのは、1対1のコミュニケーションは避けたい、自分のコメントや行動は残したくないという心情です。
友松 関係性が浅く、あまり知らない人とその場限りで交流することの方が受け入れられているようですね。
木田 そうなんです。さらに興味深かったのが、「失敗したくない」という気持ちが強く、リスクに敏感な側面があること。例えば、Z世代の女性は、脱毛にはとても関心があるものの、店やサービスを評価するネット上の口コミについては「本当だろうか」と慎重に見ており、やたらといいことしか言わない広告やPRは「怪しいのでは」と疑いの目を持つ傾向が、上の世代より強いことが分かっています。デジタルネーティブであり、日々スマホを通してあらゆる広告に接触してきているZ世代だからこそ、広告をうのみにしない感覚が鋭敏になっているのだと思います。
鈴木 1対1のコミュニケーションは回避したい。さらにマスコミュニケーションも信じがたい。そんな若者たちは何をよりどころにしているのかといえば、オンライン・オフラインの両方の「コミュニティー」だと私は考えています。そのため自分が関心のある、例えば推し活のコミュニティーなどにはいくつも属していて、そのコミュニティーの中で語られる評価や口コミ、コメントは「信じられる」あるいは「信じたい」ものになっているのです。ですから、若者のマーケティングで重視すべきはコミュニティー。こうした点でも従来とアプローチする先が変わってきているのを実感しています。
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