「日本のリテールDX(デジタルトランスフォーメーション)の未来」が予見される――。そんなことが感じられる食品小売業界のイベント「GroceryShop(グロッサリーショップ) 2022」が、2022年9月19日から22日、米国ラスベガスで開催された。前回の伴大二郎氏によるリポートに続き、イベントに参加したIBAカンパニー(東京・新宿)の射場瞬氏が、その模様をお伝えする。前編・後編の2回に分け、米国の小売りが今最もフォーカスしているポイントを解説していく。
「GroceryShop 2022」は、食品小売りに特化したコンベンションだ。グロッサリー(食料品)を販売しているリテール(スーパーマーケット、コンビニエンスストア、GMSと呼ばれる総合スーパーなど)と、そのパートナーであるメーカー、この2グループをサポートする技術会社やプラットフォーマー(米メタ、米グーグルなど)が同イベントに集結した。スピーカーとしては、主に米国から200人以上が登壇した。
▼関連記事 米国企業に学ぶ、食品小売り「5大トレンド」 インフレとの戦い方登壇者には、リテールとブランド両方の「ビジネス有名人」も名を連ね、会場を沸かせた。例えば、米ウォルマートのCEO(最高経営責任者)、米ホールフーズ・マーケットCEO、米P&Gや米ペプシコのマネジャー。他にも、食料品の即日配達サービスを提供する米インスタカートや、米ドアダッシュの社長などが登壇し、聞き応えのあるセッションを展開した。
こうした専門性と現場理解の高い登壇者たちから学べた、2022年のGroceryShopでの新しい発見、驚きは何だったのか? 一言で言えば、「日本のリテールDXの未来」が予測できる、そんな最新の進化が感じられたことだと思う。
例えば、「デジタルを活用してオンラインと店舗体験をつなぐ」仕組みをつくり、顧客データを多量に統合して収集できたとする。その後、それらの仕組みやデータを活用し、何をして、どのように収益を上げていくのか――。自社の強みや自社顧客の特性に合わせて各社が独自に考え、トライアンドエラーを繰り返しながら、市場自体が恐ろしいまでのスピードで変化している。それが今の米国リテール市場であるのだと改めて実感した。
21年との最大の違いは、「顧客とのエンゲージメント」
GroceryShop 2022の最後のまとめ「Key takeaway from GroceryShop 2022(GroceryShop 2022から得られた主な成果)」のセッションでは、5つのポイントが語られた。
2.Redefining convenience(利便性の再定義)
3.Evolving brand & retailer relationships(進化するブランドと小売業者の関係)
4.Engaging Shoppers(顧客とのエンゲージメント)
5.Grocery tech trends(食品小売業におけるテックトレンド)
その中で、今回筆者が21年と比べて、大手流通の間で一番大きく変化していると感じたのが、4つ目のポイントとして挙げられていた「顧客とのエンゲージメント」であった。実際多くのセッションで、この顧客のエンゲージメント、およびそれを深めるための体験向上が語られていた。
顧客のエンゲージメントとは、「愛着心」「深いつながり」などの意味だが、マーケティングにおいては、顧客のブランドに対する愛情を深めることを意味する。米国流通では顧客のエンゲージメントを深めるために、今何が重要で、何が競合との差異化ポイントになると考えられているのか?
GroceryShopの様々なセッションで、一番のキーワードとして繰り返し語られていたのは、少々意外でもあったが、「顧客体験の向上」だった。顧客体験が大切という考え方自体は、以前からいわれていたのでは? とも思えるが、GroceryShopで登壇者の話を丁寧に聞いていくと、「顧客体験の向上」の考え方や定義が、21年から進化を遂げているのを感じた。
「1. 誰の顧客体験か」「2. どんなレベルの顧客体験か」だ。
「重要顧客」の体験を向上し、エンゲージメントを上げる
1.誰の顧客体験か:「重要顧客」の体験にフォーカス
まず、「誰の」顧客体験を向上させるかだが、対象となっているのは、「すべてのお客様」ではない。自社にとっての「重要顧客」の体験向上にフォーカスしているのである。
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