クラフトコーラ専門メーカーとして注目を集める「伊良(いよし)コーラ」。大手広告代理店の社員が、サラリーマンとコーラ職人という二足のわらじでブランドを立ち上げた物語性も相まって、メディアでもたびたび紹介された。反対の声がありながらも、2021年4月には新型コロナウイルス下の渋谷で新店をオープン、22年10月にはナチュラルローソンで瓶コーラの数量限定販売を開始。23年春には、缶コーラを販売することが日経クロストレンドの取材で分かった。クラフトコーラのパイオニアとして挑戦を続ける、伊良コーラの今を聞いた。

フードトラック前に立つ
コーラ小林氏 伊良コーラ代表/コーラ職人。1989年東京生まれ。和漢方職人・伊東良太郎を祖父に持つ。北海道大学農学部卒業、東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、大手広告代理店に勤務しながら、大好きなコーラ作りの探求を進め、2018年7月にクラフトコーラ専門メーカー・専門店「伊良コーラ」を立ち上げる
[画像のクリックで拡大表示]

終電帰りの日々、突然コーラを作り始めた

 終電帰りは日常。休日出勤も時にはある。広告代理店の新人営業は忙しい。そんなある日、ネットサーフィンをしていたとき、米国の怪しげなサイトが目に留まった。ライムジュース、シナモン、ナツメグ、バニラエッセンス……。なんとそれは、門外不出ともいわれるコーラの100年以上前のレシピだった。

 「すぐに作りたい!」。当時住んでいた東急東横線・祐天寺駅の隣、中目黒駅のそばにある高級スーパー「プレッセ」に、材料を買い集めに行った。

 材料をそろえたまではいいものの、多忙の毎日。材料はそのままレンジの上に放置していた。いつものように終電帰りの深夜3時、体はクタクタで倒れ込むように寝ていたときのこと。「このままコーラを作らなければ、一生コーラを作ることはないだろう」。そんな思いに駆られ、目が覚めた。すぐに、レシピを基にコーラを作ってみた。

 そこから、2年半もの間、自作のコーラの改良を重ねた。友人にふるまった際には、「これ、いくらで売ってくれるの?」と聞かれるほどの味になった。「このコーラを色々な人に届けたい、売ってみたい」と、強く思った。

 その第一歩として2018年7月29日、自作のフードトラック「カワセミ号」を走らせ、国際連合大学前広場(東京・渋谷)で農家が野菜や果物を販売するイベント「青山ファーマーズマーケット」に出店した。パウチに入ったコーラのシロップ(原液)を炭酸水で割る。仕上げに輪切りのレモンを入れ、風味付けにブラックペッパーを振りかけて、客に提供する。見慣れたペットボトル入りのコーラとはかけ離れた姿は、人目を引く。初出店にして行列ができた。用意していた150杯分のコーラが完売した。

フードトラックで売るパウチコーラ
フードトラックでは、パウチ入りのコーラを提供する。普段目にするコーラとひと味違う姿は、購買意欲をかき立てる
[画像のクリックで拡大表示]
パウチコーラ
10種類以上のスパイスを配合したシロップを炭酸水で割り、コーラを作る
[画像のクリックで拡大表示]

 それからしばらく、平日は本業、週末はコーラ販売という日々を送った。サラリーマンとコーラ職人の二足のわらじを履き続けるか、コーラ販売に専念するか迷った。最終的には、「伊良コーラは自分にしかできないこと。自分の人生すべてをかけてみよう」という思いから、脱サラしコーラ販売に専念することとした。

 これが、「伊良コーラ」誕生までの道のりだ。クラフトコーラ発祥人として、「コーラ小林」と名乗り活動している。

 ドラマチックなブランド物語として、何よりクラフトコーラの先駆けとして、伊良コーラは注目を集めた。カルチャー雑誌「POPEYE(ポパイ)」やNHKのバラエティー番組「サラメシ」、ウェブメディアなど、様々なメディアに引っ張りだこになった。味が評判になり、取扱店も着々と増えていった。

市場をつくってきたのに、前進していない?

 順風満帆のブランドという印象を受けるが、それから4年あまり。22年10月、コンテンツ投稿サイト「note」にて、コーラ小林氏はこんな思いを吐露している。「自分の経営者としての力不足を感じる」「ただただ自分のふがいなさを痛感しました」

 そのきっかけは、22年4月に放送されたTBSテレビ系のバラエティー番組「マツコの知らない世界」でのこと。クラフトコーラを特集する回で、伊良コーラはその先駆けとして紹介されたものの、マツコが試飲するブランドとしては選ばれなかったのだ。

 それを受け、事業家の友人からは「伊良コーラはクラフトコーラの市場をつくってきたはずなのに、最近は大きな前進をしていないのではないか? これは経営者の責任だ」という厳しい言葉を投げかけられた。

反対を押し切りオープンした、渋谷店での学び

 もちろん、クラフトコーラブランドの先駆けとして、挑戦は続けてきた。その1つが、「伊良コーラ総本店下落合」(東京・新宿)に続く2号店として、21年4月にオープンした「伊良コーラ渋谷店」だ。新型コロナウイルス禍の影響で人出が少なく、空きテナントも目立っている状況でオープンを決断した。反対や心配の声もあったが、それを押し切ってのことだった。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。