「Instagram」で実施したライブ配信の動画を、自社ECサイトでのマーケティングに再利用する。そんな施策でECでの購入完了率を上げたのが、複数のアパレルブランドを展開するジョンブル(岡山県倉敷市)だ。同社はWeb接客ツールを活用し、サイト訪問者にポップアップ(小さな画面)でInstagramの動画を表示して、商品を訴求。SNSとECサイトの利用者の両方にアプローチする一石二鳥の動画戦略をとった。この施策は功をなし、動画を視聴した人は動画非表示の訪問者と比べて、1.5倍の購入完了率だったという。
ジョンブルがECサイトで動画施策を強化し始めたのは、今から2年前のこと。新型コロナウイルス感染症拡大の真っただ中だ。外出自粛ムードが広がり、実店舗への来店などがしづらい中、ECサイトの利用が急拡大した。多くのEC事業者が、その恩恵を受けたことだろう。ところが、ジョンブルはその限りではなかった。
「リアル店舗にお客さまが行きづらくなったため、ECサイトが伸びると一般的には言われていた時期だったが、当社の場合はそうはならなかった。(主力アパレルブランド)『JOHNBULL』は、商品の素材感や工夫など、こだわりのポイントをリアル店舗でスタッフが説明することで、価格に納得して購入していただけるブランドだと考えている。ECサイト上の商品写真やテキストだけでは伝わらない部分があると感じていた」
ジョンブル販売促進課の曽我部大補氏はこう振り返る。そもそも外出する機会が減ったため、ファッションへの関心が薄れ、アパレル市場自体が苦境に立たされていた面もあるだろう。そこで、ECサイト上でも、店舗でスタッフから商品説明を受けられるような疑似体験を提供することで、ECサイトの弱点を補えないかと考えた。その具体策として、JOHNBULLの公式オンラインストアで動画施策を開始した。当初はサイト用に動画を作成していた。だが、次第にInstagramで配信した動画をECサイトのポップアップでも転用するようになったという。
ジョンブルは2020年から21年まで、全国のJOHNBULLの店舗スタッフが持ち回りで、2週間に1度Instagramでライブ配信を行っていた。ライブ配信は、ECサイトで購入できるお薦め商品を、旬の着合わせと共に紹介する内容だ。そのライブ配信を、後日「Instagram TV(最大60分間の動画をInstagramでシェアできる機能。現在同機能は終了している)」でも閲覧できるようにしていた。
Instagramライブはボタン1つで撮影できるため、ECサイトのためだけに動画をつくるより、はるかに効率がよい。また、店舗スタッフが提案する着合わせや着回しの提案は、接客慣れしているだけあって質が高い。商品を組み合わせてアレンジのパターンを提示しながら、商品紹介をすることで、視聴者のイメージが湧き、購入につながりやすい。
だが、Instagram上の動画を進んで閲覧するのは、基本的にはJOHNBULLのアカウントの存在を知っている層だ。ECサイト訪問者の全員が、ブランドのアカウントを認知しているとは限らない。であれば、Instagram上の動画を自社ECサイトで活用すれば、専用動画の制作の手間が省ける上、SNSの利用者とECサイトの訪問者に商品を紹介できて、一石二鳥と考えたわけだ。
その具体的な方法として、Web接客ツールを活用する。同ツールは、サイトの訪問者の行動に合わせて、ポップアップでクーポンやコンテンツなどを訴求できる。ジョンブルは18年8月にデジタルマーケティング支援会社Sprocket(スプロケット、東京・目黒)のWeb接客ツールを導入し、サイト訪問者にInstagramの動画を活用した商品訴求を始めた。ポップアップの「動画で紹介した商品はこちら」のボタンを押すと、動画で紹介されていた商品が拡大表示され、商品ページに遷移する。
また、動画部分をクリックすると、そのまま公式Instagramページが開く。ECサイトの商品購入の増加が期待できることに加え、アカウント自体の認知が高まり、フォロワーが増えれば、販路拡大にもなる。Instagramの動画を活用した背景には、こうした狙いもあったという。
視聴者数の拡大は売り上げにつながるのか?
Instagramの動画に限らずWeb接客ツールの活用方法に共通することだが、サイト訪問者のそれぞれの行動に合わせた内容の出し分けが、効果を高める上で重要になる。
動画施策を始めた初期は、トップページや商品一覧ページなど、サイト訪問後の間もない段階で動画を出していたという。サイト訪問後の早い段階とはすなわち、客層を絞らず、より多くの訪問者に動画を見てもらえる可能性が高い。視聴者数を増加させたほうが、より商品に興味を持つ顧客を増やせるようにも思える。
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