ファッションブランド「ロエベ」が展開した2022年秋冬のメンズコレクションのキャンペーンが印象的だ。北野武がマージャンを打っているシーンに、骨太の「LOEWE(ロエベ)」のロゴが重なっている。ある種の賭けともいえる大胆なエネルギーを感じた。どのような意図からこのキャンペーンが行われ、どんな反応や効果があったのか。ロエベジャパンでマーケティング&コミュニケーション シニアディレクターを務める澤井愛佳氏に話を聞いた。

北野武が麻雀をしているシーンが印象的な、ファッションブランド「ロエベ」が展開した2022年秋冬メンズコレクションのキャンペーン
北野武がマージャンを打っているシーンが印象的な、ファッションブランド「ロエベ」が展開した2022年秋冬メンズコレクションのキャンペーン

日本独自の発信を行ったキャンペーン

 ロエベは1846年にスペインで創業したラグジュアリーブランド。1960年代にアパレルを立ち上げ、パリコレクションに参加しており、96年にはLVMHグループの傘下に入った。

 ブランド全体のクリエイティブディレクターを務めるのはジョナサン・アンダーソン氏。同氏は2008年、自身の名を冠した「J.W.アンダーソン」を立ち上げ、13年、ロエベのクリエイティブディレクターに抜てきされた。数あるパリコレ参加ブランドの中にあって、ロエベが注目を集め、高い評価を得ているのは同氏の力によるところが大きい。ブランドの業績も好調に推移している。

 グローバルで展開しているファッションブランドの大半、中でもラグジュアリーブランドは、本国主導のコミュニケーション戦略を徹底してきた。そんな中にあって、今回のような日本独自のコミュニケーションは異例といえる。なぜなのかを聞いたところ、「本国のCMO(最高マーケティング責任者)がローカルはブランドにとって重要な役割を果たす場ととらえているから」と澤井氏。

 澤井氏は、米国のKDDIでプロジェクトマネジャーを務めた後、クリエイティブエージェンシーであるAKQAで「ナイキ」などの仕事に携わって現職に至る。「ロエベは170年以上に及ぶ豊かな歴史を備えたブランドでありながら、未来に向けた“自由とイノベーション”が行える場ととらえています」(澤井氏)。今回のキャンペーンも、そういった文脈の中で“イノベーション的な役割”を果たしたと言える。

ロエベジャパン マーケティング&コミュニケーション シニアディレクターの澤井愛佳(さわい・あいか)氏は米国ニューヨーク生まれ、横浜やバンコクで育つ。ニューヨーク大学卒業後、KDDIアメリカで新規携帯事業の立ち上げに従事し、フロント&バックエンドの開発・サービス運用のイロハを学ぶ。クリエイティブエージェンシーAKQAでは「ナイキ」「グーグル」「シュウ ウエムラ」「アメリカン・エキスプレス」など、多数のブランドの仕事を経験し、プロダクションを統括。2019年10月から現職
ロエベジャパン マーケティング&コミュニケーション シニアディレクターの澤井愛佳(さわい・あいか)氏は米国ニューヨーク生まれ、横浜やバンコクで育つ。ニューヨーク大学卒業後、KDDIアメリカで新規携帯事業の立ち上げに従事し、フロント&バックエンドの開発・サービス運用のイロハを学ぶ。クリエイティブエージェンシーAKQAでは「ナイキ」「グーグル」「シュウ ウエムラ」「アメリカン・エキスプレス」など、多数のブランドの仕事を経験し、プロダクションを統括。2019年10月から現職

化学反応が起きるクリエイティブチームを結成

 「ここ数年、売り上げは順調に伸びているものの、アパレルの認知度アップが課題の一つになっていました。今回はメンズを強化しようというテーマのもと、3つのポップアップショップの開設も含め、キャンペーンを実施することにしました」(同氏)。おしゃれに関心が高い層が想起するアパレルブランドのラインアップにロエベがなかなか入ってこない。そこをテコ入れするという意図をもって進めたわけだ。

 そんな中、ラフォーレ原宿にある人気セレクトショップ「GR8(グレイト)」をコラボレーションパートナーとしたキャンペーンができないかという案が出てきた。一方、澤井氏はクリエイティブレーベル「PERIMETRON(ペリメトロン)」のプロデューサーである西岡将太郎氏と親交があり、PERIMETRONとGR8が組んだら化学反応が起きるのでは考え、コアとなるチームを結成した。

 その上で、キャンペーンのターゲットとなる20代後半の層と、GR8のスタッフに対し、ファッションをはじめ、関心のあることやメディアとのかかわりについてヒアリングし、キャンペーンの展開を練っていったという。

北野武さんしかいない

 チームに対して澤井氏が示した方向性は3つあった。1つ目は「DEEP IMPACT」。周囲に威圧感を与えるような強いインパクトを表現することだ。ロエベのメンズコレクションのインパクトを、強烈なエネルギーをもって伝えることを狙った。2つ目は「CROSS OVER」。日本のブランドも海外のブランドも分け隔てなくミックスして着こなし、国やジャンルを越えてエッジの効いたカルチャーを自在に楽しむ価値観を表現しようと考えた。3つ目は「RAISE THE FLAG」。高い旗印を掲げることで、いわゆるファッションコミュニティーに限らず、さまざまな人に広く伝えることを狙った。

 どんなクリエイティブをつくり上げていくか議論を重ねる中、「パワーを持った文化人を起用したい」という意思が明確になっていった。「北野武さんしかいないと皆の意見が一致したのです」(同氏)

 もちろん、即OKが出たわけではない。どのようなテーマで、どんなシーンを切り取るのがベストか、チームで考え抜いた。広告を目にした人にある種の威圧感を抱かせ、カルチャーの匂いがあり、強烈に目と心が引かれるものは何か。そこで「武さんとの親和性はもちろん、深い思考に根ざした策士といったイメージや映画的な物語性などを鑑み、マージャンを打っているシーンでいこうと考えたのです」(同氏)。何度も折衝を重ね、ゴーサインを得ることができた。そして、北野武とともに、次世代をけん引する存在として村上虹郎、柄本時生らを起用し、広告をはじめ、ロエベの公式サイトやSNSなどでキャンペーンビジュアルを公開した。

 さらに、「今回のメンズキャンペーンはリュウ・イカという内モンゴル自治区出身の写真家なくしてはありえなかった」と澤井氏は言う。広告を手掛けるのが初めてという若手だが、「彼女の爆発的な感性は今回の企画に有効に働くに違いないという確信のようなものがありました」(同氏)。一連のビジュアルは、洗練とやぼ、上品と粗暴、かっこよさとダサさのギリギリの際を見事にえぐり取っている。「人は境界にあるものに引かれると思うのです。今回のキャンペーンではそのギリギリのところを狙い、ざわつかせることができれば成功と考えていました」(同氏)

ブランドの熱量を伝えるときに、ローカルであることは必然の1つ

 結果はどうだったのか。国内はもちろんのこと、グローバルにおける反響も予想以上の手応えがあったという。まさに「DEEP IMPACT」「CROSS OVER」「RAISE THE FLAG」を実現し、ロエベのメンズのイメージアップを実現したのだ。「ブランドの熱量を伝えるときに、ローカルであることは必然の1つととらえています」という澤井氏の思いは、確かな成果を生み出した。

 そんな澤井氏がロエベのコミュニケーション戦略で重視しているのは「気取らないラグジュアリー」であること。多くの人に直接働きかける接点を持ち、つながっていくことが、今まで以上に求められているという。

 ファッションは長らく三角形のピラミッド構造のもとで成立してきた業界だ。限られた特定の人だけが手に入れられる情報やモノが、裾野に向けて徐々に広がっていく。限定された特別感や、上から目線で語るストーリーが有効に働く世界でもあった。しかし、デジタルによる情報や商品流通のフラット化が進む中、そのありようが問われている。

 当然のことながら、コミュニケーション戦略も形を変えていかなければならない。「パーフェクトであることより勇敢であることが大事。同じことを良しとせず、挑戦し続けること。私なりの偏愛を抱きながら、前に進んでいこうと思います」という澤井氏の力強い言葉が頼もしく響いた。

(画像提供/ロエベ ジャパン)

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