太宰府天満宮の参道で70余年にわたって和菓子店を営んできた老舗が、新型コロナウイルス禍を機にDX(デジタルトランスフォーメーション)へ取り組み、着実に成果を上げている。フリーランスの社外人材を活用し、SNSやクラウドファンディングで店の強みを再確認したうえでデジタル化を推進。コアなファンとのつながりを深めながら、ECの強化を図っている。地方の個店がDXで成功する秘訣とは。

梅園菓子処のECサイト
梅園菓子処のECサイト

人気観光地の和菓子店がコロナ禍で一転、危機に直面

 元号「令和」の発祥地である福岡県太宰府市の人気観光地、太宰府天満宮。菅原道真公を祭り、年間約1000万人が参拝に訪れるという。この太宰府天満宮の参道で、1948年から「御菓子処・梅園」の看板を掲げてきたのが梅園菓子処だ。

 現社長の佐藤真理氏が店を継いだのは、今から10年前。それまでは社長の母親が店を切り盛りしていたが、有効な手立てが打てないまま年々売り上げが減少していたという。真理氏の夫であり、専務の佐藤弘人氏は店を継いだ当時を振り返る。

 「天満宮さんの御用達という信用があるので外からはもうかっているように見られていたが、内情は課題だらけで危機的な状況。管理はアナログで、売り上げを伸ばす施策はもちろん、新規の若い顧客へのアプローチもできていなかった」

 経営の立て直しに本腰を入れることを覚悟した佐藤夫婦は、まず経理部門の改革に着手。マネーフォワードの会計ソフトやリクルートのPOSレジアプリ「エアレジ」を導入するなど、数字の洗い出しから始めた。そして、自社でECサイトを構築。プリンのような食感が人気の看板商品「宝満山」が、運良く生命保険会社の機関紙に掲載され、ネット注文が殺到したものの、1カ月ほどするとEC売り上げは落ち着いてしまったという。

看板商品の「宝満山」
看板商品の「宝満山」

 そこでECサイトのリニューアルを検討し、今度は大手Web制作会社に依頼。しかし、細かな修正が迅速にできなかったり、都度高額の費用がかかったりと、運用体制は盤石とはならなかった。そこに訪れたのが、“コロナ禍ショック”だ。

 「うちは本店で売るのが基本。特にコロナ禍前は海外からのインバウンド客で参道があふれかえっていて、集客施策を考える必要がなかったほどだった」(佐藤専務)。ところが、コロナ禍で一気に参道から人がいなくなり、危機に直面。日本橋三越本店や神戸阪急など全国の百貨店での催事出店を積極的に行うとともに、ECの立て直しが急務になった。

 そのとき、頼ったのがECサイト構築など多様なスキルを持つフリーランスと依頼企業をつなぐマッチングサービス大手、ランサーズだ。紹介されたフリーランスの活躍で、ECサイトの修正やアップデートのスピード感は格段に向上した。そうして信頼を積み重ね、2021年2月に今度はECカートをShopify(ショッピファイ)に切り替え、フリーランスと二人三脚で再スタートを切った。

プロのフリーランスを活用し、テストマーケティング

 ランサーズとの取り組みは、それだけでは終わらなかった。ランサーズが21年4月に新規事業として立ち上げた「地方中小企業のDX化支援プロジェクト」に誘われたのだ。同プロジェクトは、地域で1社の企業にランサーズ専任担当が伴走し、プロのフリーランスを活用して経営課題を解決するというものだ。

 プロフリーランスとは、地方企業の事業改善経験を持っている、計画だけでなく自ら手を動かせる、自らも経営者であるなどの条件を兼ね備えたプロフェッショナルなDXディレクターのこと。ランサーズCEvO(チーフエバンジェリストオフィサー)でプロジェクト責任者の根岸泰之氏は、同プロジェクトを立ち上げた理由についてこう話す。

ランサーズの根岸泰之氏
ランサーズの根岸泰之氏

 「地方には良いサービスや商品を提供している企業がたくさんあるものの、人手不足やデジタル対応で困っているところが多い。一方で、とりあえずデジタル化・効率化・DX化となって、うまくいかないことも少なくない。何を大切にして、何を変化させるのか。適切にジャッジしないと、むしろ業績が悪化しかねない。日本中の中小企業をデジタル化の波に表面的に巻き込ませないことが大事」

 このプロジェクトは当初3社限定で公募したところ、約50社が登録。梅園菓子処は選考からもれたが、佐藤夫妻の熱い思いが伝わり、同プロジェクトのスキームの一部を活用する形でサポートが始まった。

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