キャラクターのフィギュアに「楽天Edy」の機能を搭載。キーホルダーにして電子決済で使えるように――。従来なら家で保管するフィギュアを、出先でも使えるようにすることで、ターゲット層や商品との接点を拡大する狙いだ。仕掛け人は、販売目標を「数十億~100億円」に設定。その勝算を聞いた。
フィギュア型の決済端末はほぼ初
サイバーエージェントグループで、高価格帯のフィギュアブランドを展開するeStream(イーストリーム、東京・渋谷)が立ち上げた、新たなフィギュアブランド「きゃらぺいっ!」。ブランド名の由来は、キャラクターの「きゃら」と、支払いの「ぺい」を組み合わせたものだ。フィギュアの台座部分に、電子マネー「楽天Edy」の機能を備えたコインを取り付けられるように設計。キャッシュレス決済に利用できるようにした。
フィギュアといえば、コレクションして眺めるのが一般的な楽しみ方だ。しかしそれだけでは、購入した後に家で保管するだけで完結してしまう。そこでeStreamは、フィギュアを日常使いできるように決済機能を搭載し、より商品に愛着を持ってもらうようにした。サイズも5~7センチメートル四方と、フィギュアにしては小型に収め、鞄やキーケースに取り付けやすいようにした。
発売は2022年11月17日を予定。第1弾のラインアップには「サンリオ」を選んだ。マイメロディ、クロミ、シナモロール、ポムポムプリンと、かわいらしいキャラクターで、20~30代の女性層にアプローチする。その他にも、「五等分の花嫁」「呪術廻戦」「第五人格」「わんぱく!刀剣乱舞」といったシリーズをスタンバイ。まずはサンリオで、推し活やSNSの発信に敏感な20~30代の女性層を取り込み、認知を広げてからターゲット層を広げていく考えだ。
eStreamプランナーの稲葉晟菜氏は、「フィギュアとして、決済機能を搭載した商品はほぼ初めて」と語る。過去にはソニーグループの非接触ICカード技術が内蔵されたキャラクター商品も展開されているが、あくまでも薄いアクリルキーホルダー製のものだ。きゃらぺいっ!のように、立体でアニメキャラクターが精巧に再現された決済アイテムは目新しい。推し活のブームをくみつつ浸透を狙う。
価格は、シリーズにより若干ばらつきはあるものの、1個当たり3000~3500円(税込み)を想定。第1弾のサンリオシリーズは3460円(税込み)となっている。数年後には、数十億から100億円規模の販売目標を見込む。概算して、数年間で300万個を販売する規模だが、3000円台のフィギュアがそこまで売れる勝算はどこにあるのか。
コロナ禍で高品質な商品が売れ筋に
稲葉氏は、きゃらぺいっ!の勝算を大きく2つ挙げる。
1つ目は、これまでの事業で、高品質な商品の売れ筋が良いことだ。
eStreamは20年に、高品質のフィギュアブランド「SHIBUYA SCRAMBLE FIGURE」を設立。1個3万~5万円の価格帯のアイテムが中心。当初は1万~2万円程度の価格帯にする予定だったが、フィギュアの躍動感やスケール感を求めた結果、採算が合わず価格を上げることに。しかし、この軌道修正が奏功。eStream社全体としても、21年度は売上昨対比で400%増を記録した。
「結果的にではあるが、一定数のユーザーには、高品質のフィギュアがウケると分かった。これまでアニメはサブカル的なコンテンツという側面が強かったが、新型コロナウイルス禍でアニメを見る方が増えて、どんどんマスコンテンツになってきている。アニメの裾野が広がり、コンビニなどにもアニメグッズが広がる中で、安くていろいろなものが欲しいというより、持っていることを自慢したくなるような高品質のフィギュアを求めるユーザーが増えたのではないか」(稲葉氏)
そこできゃらぺいっ!も、SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREを踏襲し、造形とクオリティーに注力した。決済手段として日常使いしてもらうなら、価格を抑えた方が効果的に思えるが、ある程度高品質なフィギュアでなければ、ユーザーの購買意欲は湧かないと考えたからだ。
「きゃらぺいっ!の価格設定も、SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREから逆算して設定した。塗装の仕方やキャラクターの服や装飾など、細かい部分のクオリティーは担保しつつ、持ち運びに便利なかわいらしいサイズにすることで値段も抑えた。気軽にコレクションしてもらえるよう、価格は極力3500円以内にとどめるようにしたい」と稲葉氏。品質と価格の両面から求められやすいようなバランスを意識する。
2つ目は、イベントで先行して披露した際に、ユーザーからの反応が良かったことだ。
eStreamは7月に開催された、フィギュアなどを展示、販売するイベント「ワンダーフェスティバル 2022[夏]」で、きゃらぺいっ!を初公開。その際にデモ機を用意して、支払い体験ができるブースも用意した。すると支払いの疑似体験への食いつきが良かった。ただ単にフィギュアの魅力だけでなく、フィギュアで支払う体験に新鮮味を感じた来場者も多かったそうだ。
「最初は来場者もきゃらぺいっ!がどういうものか分からず、ブースを素通りしようとするが、フィギュアで支払いができることを説明すると、大半の方が立ち止まってくれた。支払い体験をしたユーザーからは『面白い、新しい、決済できて感動』といった反応が多く、特に子供では、何回も繰り返しデモプレーを行うことも。予想以上に体験コーナーの反響が大きかったので、今後も各所のイベントに出展していきたい」(稲葉氏)
またイベント時は、ユーザーがSNSに発信することで反響が増幅された。「あるユーザーがツイートした投稿に、他のユーザーが興味を示すことで、SNS上で認知が拡大していった。きゃらぺいっ!はこれまでにないタイプの商品なので、我々からの宣伝だけでなく、どう使うのかを含めて、ユーザーにも発信してもらうことが重要。公式Twitterアカウントでは、ユーザーがイベントで撮影した写真や投稿をリツイートしている」と稲葉氏。
イベント当日には、公式Twitterアカウントで、今後展開するキャラクターのラインアップを紹介。すると、「わんぱく!刀剣乱舞」を紹介するツイートに約7000いいね、第五人格の公式アカウントからのツイートには約5000いいねがついた。発売前からイベントやSNSを通して盛り上がりを見せていることで、プロジェクトメンバーの期待も高まっている。
こうしたユーザーの反応から、eStreamは売り上げの目標金額を数十億から100億円規模に設定。今後は、使えるシチュエーションやキャラクターの種類など、使い勝手の良さが鍵を握る。
「きゃらぺいっ!は、最初は20~30代の女性をターゲットに据えるが、最終的には幅広いユーザー層に届くようにしたい。そこで楽天Edyと提携したことがプラスになる。決済端末の設置場所が全国に100万カ所以上(22年6月1日時点)と手軽に使え、かつコンビニで現金チャージができるため、クレジットカードを持てない若年層も使える」(稲葉氏)
販路は、オンラインでは自社ECサイトと楽天Edyのオフィシャルショップ、オフラインではコンビニや小売店などを予定している。さらに今後は、テーマパークやフェスなど、手ぶらで移動したい場所への展開にも視野に入れている。また、毎月1~2種類の新シリーズを継続的に販売することで、どの属性にも好みのキャラクターがある状態を目指していく。
稲葉氏は「キャラクターで決済するという行為は、一見恥ずかしく思われるかもしれないが、徐々にきゃらぺいっ!を浸透させ、世間に新しい文化として定着させたい。今後は種類を拡大していき、自然にユーザーが日常使いしてくれるようになればうれしい」と展望を語った。数年後を見越して展開を続けるというきゃらぺいっ!は、新しい決済手段の1つとして定着するだろうか。
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