「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というコンセプトを掲げ、バッグや服飾雑貨、アパレルなどを展開しているマザーハウス(東京・台東)が2022年9月、アパレルの新ラインを立ち上げた。代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏が自らの名前を冠した「ERIKO YAMAGUCHI(エリコヤマグチ)」だ。性別や年齢を問わないボーダーレスなクリエイションが特徴だという。

 実はマザーハウスは2019年から「E.(以下、イードット)」というブランド名でアパレルを展開している。なぜ今、新ラインをスタートさせるのか。「イードット」とどう違うのか。ボーダーレスな服とはどのようなものなのか。書籍『アパレルに未来はある』で山口氏を紹介した縁もあり、コレクションを拝見しながら話を聞いた。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とするマザーハウス(東京・台東)のアパレルブランド「E.(イードット)」の新ライン「ERIKO YAMAGUCHI」。2022年9月から販売開始
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とするマザーハウスのアパレルブランド「E.(イードット)」の新ライン「ERIKO YAMAGUCHI」。2022年9月から販売開始

これまではセレクトしてチューニングする役割だった

 「自分のクリエイションを突き詰めたいという思いは、以前から何となく抱いていたことでした」と山口氏。イードットで作ってきたアパレルは、職人の技術や素材そのものの良さを表現したもので、あくまでインドチーム全員で手掛けたという意識が強かった。

 そんな中、いったん売ることを考えず、純粋に100%自分が作りたいと思う服を作ってみた。布を手に取り、服の形を思い描き、トルソー(人体の立体模型)に布を当てながら、裁断から縫製までを自ら手掛け、服を仕上げていったのだ。「どうしたいのかを決める前に、まずは作ってみようと思ったのです。そうしていくうち、自分の中でもやもやしていたものがすっきりしていくのが分かりました」という。

 なぜ、イードットでできなかったのだろうか。イードットが掲げているコンセプトは“Fabric of Freedom 自由をまとう布で、あなたを自由に”。ブランドを代表する布「カディ」を中心に、途上国の職人の技を生かした素材を大事にしてきた。「手紡ぎ手織りのカディは、インドの職人さんたちが精緻な技で作っているもの。その良さを生かす服というところから始めたのが『イードット』だった」(山口氏)。手仕事で一本一本紡がれ、織り上げられた布は、均質な大量生産品とは全く違う。人の手ならではの不均質な織りが独特の風合いを生み出し、素材に微妙な立体感と奥行きを与えている。その良さを最大限に発揮できる服を送り出し、支持を得てきたのだ。

 ただ、「優れた職人の技にクリエイションを掛け合わせ、世の中に送り出すのが私の役割。デザイナーというより、セレクトしてチューニングするところを担っているという意識が強かった」(山口氏)。

 創業当時、ファッションデザインを学んだ経験はなかった。途上国で脈々と受け継がれてきた技を生かした商品を作り、多くの人に届けたいという思いを実現するため、まずはバッグを手掛けるようになり、そこからジュエリー、アパレルと領域を広げてきた。

 工場と丁々発止のやりとりを重ねるものづくりを続けてきたが、自分のクリエイションを存分に表現してきたわけではない。ブランドを育てていく中で、既存の枠組みにとらわれず、表現者として自分の世界観を描いてみたいという衝動が湧いてきても不思議はない。

 ただ、アパレル業界は新型コロナウイルス禍で厳しい状況に置かれている上、SDGs(持続可能な開発目標)が求められる中で大量生産を前提とするシステムの是非が問われている。そんな中、精魂込めて自分で作り上げた服を前に、「周囲と何度も話し合い、やることに決めました」。自分の名をブランド名にするかどうかも議論を重ねたが、自身の『作りたい』という思いに端を発した、山口氏ならではの哲学がよく表現されたデザインだという理由から、「ERIKO YAMAGUCHI」というブランド名にし、イードットの新ラインに位置づけたという。

マザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏
マザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏

性別や年齢を問わないボーダーレスな服

 着やすさや心地よさをうたい、それなりにおしゃれなウエアは山ほど存在している。そんな中にあって、ゼロからスタートするブランドは、独自性を持っていなければ生き残れない。「アパレルはバッグと違い、とがった主観が立っていないと記憶に残る強いものになれない。ニッチな領域であっても、自分なりの個性を特化させることに注力しました」と山口氏。

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