全世界でシリーズ累計8000万部超えの大人気漫画「鋼の錬金術師(略称ハガレン)」。連載開始から20周年を記念し、新作のスマホゲームアプリが配信された。女優の吉川愛を起用したテレビCMは、漫画やアニメに触れてこなかった新規ユーザーにも刺さるよう制作したという。わずか数十秒で「ハガレン」の壮大なストーリーや世界観を伝えるため、制作陣が意識したものとは。

スマホゲーム「鋼の錬金術師MOBILE」のテレビCMが、2022年8月19日から放映開始(現在はWebのみ放映中)
スマホゲーム「鋼の錬金術師MOBILE」のテレビCMが、2022年8月19日から放映開始(現在はWebのみ放映中)

累計発行部数8000万部超の漫画をゲーム化

 「漫画やアニメを原作にしたスマホゲームのCMだと、基本的には既存ファンを狙うことが多い。しかし『鋼の錬金術師MOBILE』では、20代男性を中心とした新規層も狙った。『ハガレン』を知らない人に、わずか数十秒のCM内で、どのように作品の世界観を伝えて興味を持ってもらえるか。そこが大きなポイントだった」と語るのは、CM制作を担当した博報堂のクリエイティブディレクターの高木俊貴氏。

 「ハガレン」の略称で、2001年の連載以降、長きにわたって親しまれている漫画家・荒川弘氏の「鋼の錬金術師」。幼い頃に母を亡くした兄弟が、架空の能力である「錬金術」を用いて人間をよみがえらせる人体錬成を行い、母親を蘇生させようとするも失敗。代償として、身体の一部(弟はすべて)を失った2人は、自身の失われた身体を取り戻すため旅に出る……。

「鋼の錬金術師」の主人公、エドワード・エルリック。「賢者の石」を探すため、弟のアルフォンス・エルリックとともに冒険に出る
「鋼の錬金術師」の主人公、エドワード・エルリック。「賢者の石」を探すため、弟のアルフォンス・エルリックとともに冒険に出る

 少年誌に連載されながらも、死生観に踏み込んだハードな物語で、一般的に「ダークファンタジー」としてジャンルが定義されている同作品。過去に2度アニメ化され、21年7月時点で、全世界での累計発行部数が8000万部を超える大ヒット作品だ。

 そして22年8月4日、鋼の錬金術師の新作スマホゲームアプリ、「鋼の錬金術師MOBILE」がリリースされた。連載開始から20周年を迎えたタイミングで、出版元のスクウェア・エニックス(東京・新宿)が、独自のプロジェクトを展開。「鋼の錬金術師MOBILE」もその一環だ。9月15日からは200万ダウンロードキャンペーンが実施されるなど、幸先のいいスタートを切っている。

 初速に勢いが付いた一因として、テレビとWebによるCMがある。CMキャラクターに起用したのは女優の吉川愛。2次元の原作に、あえて女優を選んだ背景には、新たな客層を獲得したいという狙いがあった。制作陣はどのようにして、ハガレンに触れてこなかったユーザーを振り向かせようとしたのか。

「鋼の錬金術師MOBILE」のCM、「進め。罪も絶望もその身に抱いて。」編。原作の世界観を踏襲しつつ、ハガレンを知らない若い世代にも刺さるような演出を試みた

1999年生まれ、吉川愛の魅力とは

 CM制作を担当した博報堂の高木氏は、新規層を取り込むためのポイントは2つあるという。1つは、前述の通り吉川愛の起用だ。吉川は1999年生まれの22歳。2022年には、ドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」で主演を務め、映画「ハニーレモンソーダ」で日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞した、期待の注目株だ。

吉川愛。1999年生まれながら、幼少期から芸能界で活躍している
吉川愛。1999年生まれながら、幼少期から芸能界で活躍している

 「今作では、20代の男性を中心に狙っていきたかったので、年代の近い女優を起用した。吉川さんは既にブレークしているものの、まだ色が付き過ぎていないフレッシュさもあり、それでいてシリアスな演技にもたけている。ハガレンのダークファンタジー的な世界観と合うため起用させていただいた」(高木氏)

 鋼の錬金術師を知らない人には、アニメやゲーム内の画面だけを見せても、アプリゲームの魅力は伝わりづらい。そこで、まずは注目の若手女優を起用し、新規層の気を引く作戦を取った。

CM冒頭のカット。ダークファンタジー的な世界観を意識して、表情からも重苦しい雰囲気が伝わるようにした
CM冒頭のカット。ダークファンタジー的な世界観を意識して、表情からも重苦しい雰囲気が伝わるようにした

 しかし肝心なのは、アプリの内容をどう伝えるか、原作の魅力をどう伝えるかだろう。わずか数十秒の間で作品の世界観を伝え、アプリに興味を持ってもらうにはどうすればいいのか。そこで高木氏が意識したもう1つのポイントが、「ダークファンタジー要素を全面に出した」ことだ。

 近年では、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」など、ダークファンタジー系の作品を好む若者は多い。たとえ鋼の錬金術師を知らなくとも、作品内にあるダークファンタジーらしさを伝えれば、興味を示す若者はかなりいると考えた。

 「既存のファンに向けてなら『このシーンを盛り込めば心が動く』と想像はつく。だが、新規層に反応してもらうためには、どの場面を抜粋すべきか悩んだ。そこで、ハガレンのいわゆる名シーンを見せるのではなく、原作の中からダークファンタジーらしい要素の強い部分を抽出した。ハガレンを知らない人でも、ダークファンタジーな世界観を押し出せば、結果的にハガレンのことも好きになるだろうと、逆算して考えた」と高木氏は語る。

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