新型コロナウイルス禍で大打撃を受けた国内観光業にとって、インバウンド(訪日外国人)需要の復活は最大の関心事だ。国の水際措置が緩和され始めたが、欧米に比べ日本の対応は遅れていると言わざるを得ない。マーケティング精鋭集団「刀」の森岡毅氏による「インバウンドサミット2022」の基調講演を基に、インバウンド復活の道筋を探った。
日本の水際規制が足かせに
国の戦略的な観光政策により、新型コロナウイルス感染症が拡大するまで右肩上がりで増え続けた日本のインバウンド。訪日外国人数は2012年から7年間で約4倍に増え、19年には過去最高の3188万人を記録したが、コロナ禍により4.8兆円の市場が消滅した。
いまだコロナ禍が収束したとはいえない状況の中、フランスが入国規制を撤廃するなど欧米諸国では外国人観光客の受け入れ体制を整えつつある。セントラルフロリダ大学教授でインバウンドサミット2022実行委員長の原忠之氏も「米フロリダ州オーランドのホテルで宿泊税収がパンデミック(世界的大流行)前を超え、史上最高を記録した。米国の観光は戻っている」と話す。
一方、日本では2022年9月7日に、添乗員を伴わないパッケージツアーの受け入れがようやく始まり、10月11日からはビザなしでの短期滞在や個人旅行も再開されることになった。また、入国時検査を原則撤廃し、入国者数の上限も撤廃される。規制緩和が進むにつれてインバウンドが回復すると期待されているが、そのスピードの遅さに不満を漏らす向きは少なくない。
22年7月2日に開催された「インバウンドサミット2022」(主催:インバウンドサミット実行委員会)では、こうした日本の現状を踏まえ、「日本の底力」をテーマに様々な講演を実施。基調講演では、マーケティング精鋭集団「刀」(大阪市)のCEO(最高経営責任者)である森岡毅氏が「世界から『日本』が選ばれるには」をテーマに、観光業の使命やジャパンブランド構築の必要性を訴えた。
日本にはブランドマネジャーが必要
刀は「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の再建に成功した森岡氏が17年に設立。業績のV字回復に貢献した「丸亀製麺」(東京・渋谷)をはじめ、チケット売り上げを約13倍に増やした「西武園ゆうえんち」(埼玉県所沢市)、コロナ禍でも初の黒字化を達成した「ネスタリゾート神戸」(兵庫県三木市)など、多様な業種の再建に力を発揮してきた。なかでも観光業との関わりが深く、テーマパーク以外にもつながりがある。
「なぜかというと、観光業の使命に対するある思いがあるから。観光業には他の産業と異なる特殊な使命があり、あらゆる人の特徴を生かせる稀有(けう)な産業といえます。プライドを持って生きていくためには人の役に立てると思える面白い仕事がないといけないが、観光業にはその仕事があります」(森岡氏)
例えばUSJの業績が回復したとき、周辺の宿泊施設や飲食店、物販店も業績が上がったと森岡氏は言う。
「インバウンドで稼ぐことができたら、あらゆる事業に波及効果を及ぼすことができ、あらゆる職に従事している人たちを潤すことができます。これが観光業なんです。だから日本は観光業に力を入れないといけないわけです」
では、インバウンドの本格回復はいつなのか。専門家の中には、25年ごろを予測する声が多いが、森岡氏は「インバウンドも国内旅行も一気に復活する」とみる。ただ、そのための条件として、入国規制の撤廃を挙げる。「人が死ぬリスクよりも政治リスクが大き過ぎる。世界水準並みに戻せば、インバウンドは間違いなく一気に復活します」と森岡氏。その理由について、次のように解説する。
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