アサヒビールの家庭用生ビールのサブスクリプションサービス「THE DRAFTERS(ドラフターズ)」の利用者拡大が順調だ。見込み顧客の獲得、新規申し込み、会員情報の変更、追加注文に至るまで、顧客とのすべてのタッチポイントをあえて「LINE」上に設置した公式アカウント経由に限定。1つのプラットフォームで一貫したコミュニケーションを実施し、高い契約率と継続率を維持している。さらにアカウントの運営で得たデータを、新規顧客開拓のための広告配信に活用することで、獲得効率化につながっている。
「サービスの解約率(チャーンレート)は10%以下。B2C(消費者向け)の世界ではかなり低い部類に入る」。こう話すのは、アサヒビール新規事業部次長の西村拓哉氏だ。同社が2021年5月に開始したサブスク型の家庭用生ビールサービス「THE DRAFTERS(以下、ドラフターズ)」が予想を上回るスピードで会員数を伸ばし、解約率も低水準を維持している。
ドラフターズは、アサヒビールが家庭用に独自開発したビールサーバーを会員に貸し出し、2リットルの「スーパードライ」のミニ樽(たる)を毎月2回定期配送するサービス。月額7980円(税込み、以下同)で、ミニ樽は1本当たり1980円(送料別)で追加注文もできる。氷点下まで冷えた「スーパードライ エクストラコールド」の生ビールを自宅で飲めるサービスということで、会員の募集開始時からネットでも話題を集めた。
会員数はサービス開始から半年で約1万5000人を超え、22年6月には2万人を突破した。西村氏は「競合と比べて特別に会員数が多いわけではないが、ゼロベースから1年で2万人は競合も成し得ていない。B2Cとしても多い部類に入ると思う」と胸を張る。同様のサービスは、キリンビールの「ホームタップ」が先行している。アサヒビールが後発ながら順調に会員を獲得できている秘訣(ひけつ)は、巧みなLINE活用術にある。
ドラフターズは、サービス開始時から申し込める窓口をLINE経由のみに限定しているというから驚きだ。一般的には顧客を広く獲得したいため、Webサイトやメールマガジン経由など、受け付けの門戸を広く開けたくなるのが事業担当者の心情だろう。西村氏はなぜ、あえてLINE経由に絞り込むという選択をしたのだろうか。
顧客とのタッチポイントをLINEに集約。その狙いとは?
この西村氏の選択に対して、社内からは「LINE以外の動線も作るべきだ」という反対意見もあった。タッチポイントをLINEに限定することは、LINEの非利用者をサービスの対象から外すことになる。だが、西村氏はLINEを通じた高い体験の提供を優先した。LINEなら、キャンペーン情報の配信やメッセージのやり取り、登録情報や契約情報の変更、追加注文などの操作が、1つのプラットフォームで完結させられると考えたからだ。
さらに、LINEは普段の友人知人とのコミュニケーションに日々利用されるサービスのため、ログインレス(ID、パスワードの入力無し)で会員情報の変更や追加注文などを行える点も利便性が高い。「ユーザーのサービス認知や興味関心、本会員の登録、そこからドラフターズのファンになってもらうという上流から下流までの流れを設計するときに、全部できるのがLINEだった」と西村氏は言う。
西村氏には、「LINEに顧客データを集約するメリットを社内に示したい」という思いがあった。そこで、LINEの非利用者は対象から外すという思い切った決断をしたのだ。
とはいえ、LINEの国内利用者は9200万人を超えるため、今や国民に占めるLINE非利用者のほうが少ない。また、「ドラフターズの想定顧客は、ガジェットを触ることが苦にならない人が対象だ。親和性が高いのは、LINEを使いこなす層ではないかと仮説を立てた」(西村氏)。そのため、サービスの利用をLINE経由に絞ったとしても、機会損失はほとんどないと踏んだわけだ。
顧客獲得からCRMまで「4つのフェーズ」で活用
ドラフターズはLINE公式アカウントを、「(1)見込み客の獲得」「(2)有料会員化促進」「(3)CRM(顧客関係管理)」「(4)顧客同士のコミュニケーション」という4つのフェーズで活用する。いずれも既存会員の満足度を上げるだけではなく、会員の行動・消費データを分析して新規会員獲得の精度を高めるのが狙いだ。それぞれがどんな役割を持つか、1つずつ見ていこう。
アサヒビールでは、LINE公式アカウントに「友だち」登録した層を見込み顧客とする。有料会員に先駆け、まずはLINE公式アカウントに友だち登録してもらうことが、LINE公式アカウントの最初の役割となる。そして、その見込み顧客に対して、LINEを通じたコミュニケーションで「(2)有料会員化促進」施策を実施する。
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