大丸松坂屋百貨店が、デジタル改革の一環として社員インフルエンサー事業に本格的に取り組み始めた。ある分野への偏愛力や表現力が高い社員を発掘し、SNSのインフルエンサーとして起用。店舗の力だけに頼らず、個人が持つ力によって商品価値を顧客に伝える情報発信の仕組みを、新たな収益ビジネスに育てていく。百貨店が取り組む意義や経緯について、仕掛け人である大丸松坂屋百貨店経営戦略本部DX推進部の岡崎路易部長に聞いた。

大丸松坂屋の社員インフルエンサーのTikTokアカウント「お菓子食べすぎ会社員」(@tabesugi_nozaki)
大丸松坂屋の社員インフルエンサーのTikTokアカウント「お菓子食べすぎ会社員」(@tabesugi_nozaki)

 「私、お菓子食べすぎ会社員の野崎! 今日もやってきた秘密のお菓子タイム。今日はどうしてもオフィスでチョコフォンデュ食べた~い」

 こんな調子の面白動画がアップされているTikTokアカウント「お菓子食べすぎ会社員」(@tabesugi_nozaki)。登場するのは、子供の頃からお菓子が大好きで、大丸松坂屋百貨店の食品部門でキャリアを重ねてきたという入社7年目の野崎瑞穂さんだ。同社が社員インフルエンサーの育成をにらんで新規事業部を拡大する際に行った社内公募に手をあげ、2021年3月にメンバーとして加わった。

 TikTokの中の野崎さんは、タレント顔負けのとぼけた口調とコミカルな動き、表情で、テンポよく好きなお菓子を紹介していく。例えば、名古屋出張で金箔豆腐ソフトクリームを食べた22年6月7日の回。途中でクリームがぼとぼとと溶け出すも、そのまま完食した野崎さんの不器用さに好感が持てる。

 大手企業の社員だからというイメージの型にはまらず、発信する内容も取り上げるお菓子も見せ方も自由。野崎さんの個性を大切にしながら「オフィスでこっそり爆食いする」という“禁断のテーマ”でつくられた動画が爆発的な人気を集めている。

 TikTokのアカウントは、22年1月に開設。2月末には早くもフォロワー数4000人を獲得し、6月以降、加速度的に増加した。毎日投稿から現在は週4回投稿(月・水・金・土曜の19時ごろ)となったが、フォロワー数は8万2000人以上、累計投稿本数188本で総再生回数も5400万回を突破している(22年8月29日時点)。

 例えば、最も再生回数が多い「オフィスでこっそりチョコフォンデュパーティー(ひとり)」や「オフィスでこっそりチョコだけの弁当食べる」は、いずれも230万回以上再生されており、最近では100万回超えの投稿も多い。

再生回数200万回超えの投稿「オフィスでこっそりチョコフォンデュパーティー」
再生回数200万回超えの投稿「オフィスでこっそりチョコフォンデュパーティー」

 「約8万人のフォロワーに対して平均再生回数が30万回以上に達している野崎の投稿は、70~80万人フォロワーがいる人のリーチ数に近いレベル。総いいね数も200万を超えており、いただいたコメントの返しなど地道にやってきたからこそ視聴者のエンゲージメントも高い」と、大丸松坂屋の社員インフルエンサー事業を率いる同社経営戦略本部DX推進部の岡崎路易部長は胸を張る。

社員インフルエンサー事業を推進する岡崎路易部長
社員インフルエンサー事業を推進する岡崎路易部長

 これまでInstagramなどで単にお菓子を見せるだけの投稿はあっても、顔出しで好きなお菓子を食べながら紹介するSNSアカウントは意外と少なかった。そこに可能性を感じた岡崎部長らは、“お菓子×人”を切り口にビデオブログ(Vログ)形式で配信することを思いついた。大企業の社員が職場で爆食いするという意外性もTikTokのユーザー層を引き付けた。

 TikTokの戦略について岡崎部長は「最初からコンテンツで勝負しようと思っていたので、フォーマットづくりにはとにかく力を注いだ」と話す。どの動画も、野崎さんがオフィスに全力で走ってきて、お菓子をばくばく食べた後、きっちりオチも付く。テンポがよく、起承転結のあるこのフォーマットは、クリエーティブディレクターと野崎さんの2人が考えたものだ。

 「お菓子×人というコンセプトに、大企業の社員、そして同じフォーマットを重ねていくVログ。これら3つの掛け算によってフォロワー数を伸ばしてきた」と岡崎部長。しかし、今では軌道に乗りつつあるインフルエンサー事業も、実はTikTokがバズるまでは存続の危機に直面していた。

なぜ大丸松坂屋は社員インフルエンサー事業を始めたのか

 大丸松坂屋百貨店が新規事業として社員インフルエンサー事業に参入したのは21年8月のこと。発端は20年ごろからの新型コロナウイルス禍で百貨店の売り上げが激減したことだった。リアル店舗がますます厳しくなる中、どの百貨店にとっても新規事業の開拓が喫緊の課題になっていた。

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