LINEを活用したMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の取り組みが広がっている。月間利用者数9200万人(22年3月末時点)を誇る巨大プラットフォームは、衰退著しい地方の公共交通を救えるのか。青森県弘前市の実証実験を通して見えた、2つのポイントとは?

LINEとMaaS Tech Japanは弘前市でシニア向けデジタルチケットの実証実験を行った
LINEとMaaS Tech Japanは弘前市でシニア向けデジタルチケットの実証実験を行った

 JR東日本の在来線の実に3分の1に相当する地方路線が「赤字」――。

 2022年7月28日、JR東日本はこんな衝撃的なデータを初めて公開した。それによると、1キロメートル当たりの1日の平均利用者数を表す「輸送密度」が2000人に満たない赤字路線は2019年度で35路線、66区間。その赤字額の合計は年間693億円に上るという。

 地方の公共交通をめぐる惨状は、路線バスも同じだ。新型コロナウイルス禍でそもそもの移動需要が減退したことに加え、マイカーによる移動が増え、運転手の人件費も高止まりしている。それらにより、多くのバス事業者が赤字に陥り、路線バスの廃止距離も増加している。

 こうした中で、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)のような交通のデジタル化に向けた投資をするのは容易ではない。そもそも、都市部では当たり前となった交通系ICカードすら、いまだに地方のバス路線では導入されていないことも珍しくない。そのため、どの停留所の利用が多いのか、どの時間帯にどんな人が乗っているのかなど、基本的なデータ分析もできないことが多い。

 また、MaaSの議論を進めようにも、デジタル化により取り残される可能性がある高齢者の存在が課題となる。特に運転免許証を返納した高齢者にとって公共交通は“生命線”といっていい。拙速にデジタル化を進めるべきではないのは確かだが、すでに路線の統廃合が進む過疎地域では家族が送迎のクルマを出すなど、現役世代の負担感も増しているのが現状だ。

 こうした地方が抱える交通のジレンマを解消する取り組みとして、LINEと、MaaSの社会実装を推進するMaaS Tech Japan(東京・千代田)は21年10月の1カ月間、青森県弘前市を舞台に実証実験を行った。

弘前市の公共交通の分担率は路線バスが多い
弘前市の公共交通の分担率は路線バスが多い

 青森県の西部に位置する弘前市は、人口約17万人の県内3位の中核都市である。市内の公共交通は弘南バスによるバス路線、北星交通による乗り合いタクシー、弘南鉄道などが担っている。これらの利用促進や高齢者の移動サポートのため、弘前市は地域の70歳以上を対象に「お出かけシニアパス」(5000円)を発行してきた。これを見せると、市内乗降の路線バスや乗り合いタクシー、弘南鉄道大鰐線の全区間が1 乗車100円で利用できる。

 ところが、だ。シニアパスは紙面での発行のため、利用者の乗降データを取れず、実際にどの程度シニアパスが使われているかどうかも、運転手の記憶や事後アンケートなどに頼るしかない状態だった。

 それに対して21年の実証実験では、LINE上でデジタルチケットを発行することにした。具体的には、お出かけシニアパスのLINE公式アカウントを開設。利用者はそのアカウントを友だち登録しておき、路線バスなどの乗車時と降車時にLINEからデジタルチケットを表示させて「乗車する」ボタンを押したり、運転手に見せたりする。この際、GPS(全地球測位システム)の情報が取得され、乗降データがたまる仕組みだ。

実証実験で提供したデジタルチケット
実証実験で提供したデジタルチケット

 システムはマイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」をベースとし、MaaS Tech JapanのMaaSデータ統合基盤「TraISARE(トレイザー)」と接続。利用者側(フロント)にLINEを活用することで、新規でアプリを制作するよりも短い開発期間で費用も格段に安く抑えられたという。

高齢者の意外な移動実態が判明

 今回の実証実験の対象となったのは、70~88歳の弘前市民25人。いずれもスマートフォン保有者だが、3分の1がLINE未利用者だった。また、約9割が運転免許の非保有者で、公共交通に頼るか、家族に送迎をしてもらって移動している。こうした設計の実証実験で見えてきたのは、2つのポイントだ。

 1つ目は、「高齢者のデジタルの壁」を突破する手段として、LINEが有効だったこと。1カ月の実証期間中、1人で最大36回の利用があり、8回以上利用をした10人で全体利用回数の約80%を占めた。また、1日の平均利用回数は6.9回だった。対象者には事前レクチャーを行った上で使ってもらったが、70歳以上の高齢者がデジタルチケットをここまで使いこなしたのは注目に値する。

約7割のユーザーがデジタルチケットが分かりやすいと評価
約7割のユーザーがデジタルチケットが分かりやすいと評価

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