定番のあめが、実はZ世代に人気を集め、売り上げを伸ばしている。国内でクラシエフーズ(東京・港)が輸入販売を行っている、棒付きキャンディーの「チュッパチャプス」だ。コロナ禍で売り上げが一度は落ち込んだが、その後、驚異のV字回復。大きな要因の一つが、Z世代施策の成功だという。どのようにして若者の心を射止めたのか。
コロナ禍は菓子業界に甚大な影響を及ぼした。全日本菓子協会の推定によると、生産数量、生産金額、小売金額は、2020年はいずれも前年比マイナス6%となり、統計を開始した1960年以降で最大の下げ幅を記録。特に、深刻だったジャンルの一つがあめ菓子で、生産数量がマイナス18.5%、生産金額がマイナス12.9%、小売金額がマイナス15.1%と大きく落ち込んだ。
2021年は下げ幅が緩和されたものの、それぞれマイナス0.9%、マイナス0.6%、マイナス1.3%と市場の縮小が続いた。マスクをした状態でのあめの喫食に抵抗感があったと考えられる他、外出自粛による観光地の土産店、オフィスの需要減少、インバウンド需要の消失などが背景として挙げられる。
チュッパチャプスも20年は、市場と同様に前年比で売り上げを落とした。だが、21年は驚異のV字回復を見せ、コロナ禍前より約6%も売り上げが伸長する結果となったのだ。その要因を、商品の製造元であるペルフェッティ・ヴァン・メレ・ジャパン・サービス(東京・港)のチュッパチャプス ブランドマネジャー、小長井雅彩氏はこう話す。
「一つはコロナ禍でもデジタルプロモーションを減らさずに行い、消費者への接触を継続したこと。また、店舗のカバー率が高く、コンビニの加重販売率(販売している店舗の割合)は96.9%(21年)と、ほぼ100%となっているため、情報に接触した際、店に行ってすぐに買える状態だったことも有利に働いた。そして、コロナ禍が続き、おうち時間が増えたからこそ、逆に食べる機会が増加したこと。この最後の要因が売り上げ増大に大きく寄与した」
「人と会わないこと」が需要を押し上げたわけ
なぜおうち時間が増えたことで食べる機会が増えたのか。理屈はこうだ。日本では棒付きキャンディーを人前で喫食するのを「恥ずかしい」「行儀が悪い」と思い、チュッパチャプスが好きな人でも、外出先などでなめることをためらう傾向があったという。それが、コロナ禍でおうち時間が増え、他人の目がなくなったことで、思う存分喫食できるチャンスが増した。
コロナ禍が始まった当初は、突然の巣ごもり生活に多くの人が戸惑った。だが、長引くにつれ、何か自宅で楽しめるものがないかと思案した人も多いだろう。その結果、外では我慢していたチュッパチャプスが目に留まり、一人、あるいは家族となめる機会が増えたというわけだ。「実際、何人かにデプスインタビュー(対象者と1対1で話を聞く調査手法)を行うと、自宅での喫食機会が多くなったという回答が目立った。人と会わないことがチュッパチャプスの需要を押し上げた」(小長井氏)という。
だが、チュッパチャプスの復活劇の立役者は、コロナ禍による巣ごもり需要だけではない。もう一つ後押しした大きな鍵がある。
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