顧客体験で高い評価を得ている星野リゾートの星野佳路代表に、書籍『売上の地図』著者の池田紀行氏が迫るインタビューの後編。前編では主に、星野リゾートにおけるSNS活用の考え方について聞いた。後編では、若年層へのアプローチや「教科書通りの経営」について語る。
▼前編はこちら 星野リゾート代表「デジタルチームといつもケンカになる議題とは」【前編】池田紀行氏(以下、池田) 星野リゾートと聞くと、「高級」「良い顧客体験ができる」といったイメージがまず思い浮かびます。一方で「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」とブランドが拡張し、星野リゾートは「旅を楽しくする」をコンセプトとするアンブレラブランドになっていく段階かと存じます。そうしたとき、比較的リーズナブルなホテルブランドの宿泊客から「星野リゾートだから期待していたのに」と過度な期待からのネガティブレビューがつく心配、リスクを想定されていますでしょうか?
星野佳路氏(以下、星野) OMOとBEBは確かにリーズナブルな価格帯のホテルで、行って楽しめる、旅のテンションが上がる、というコンセプトのブランドです。もし、それが楽しくないものであるとしたら、ブランド上の問題になるので修正が必要です。ところが、もし「星野リゾートの施設というから期待して行ったのに高級感がなくてガッカリした」という内容であれば、それはブランドが拡大する過渡期においてはある程度は許容せざるを得ない。星野リゾートというブランドイメージのトランジション(移行)を進めながら、OMOやBEBというサブブランドの認知度を高めていく必要があります。
多くのホテル群を抱えるとスケールメリットは利くのですが、いろいろなタイプのホテルがいろいろな目的で利用できるという新しいブランド体系が見えづらい状態に一時的になるので、それを顧客に正しく再整理して伝えていく必要があります。リスクを怖がっていると、この作業が進まなくなってしまう。
星のや、および界は高級ラインなので、「星野リゾート=高級」というイメージが親ブランドについています。それは良いことであり価値があることではありますが、それだから星野リゾートはOMOやBEBといったブランドには進出できないとなると、長期的な競争優位を達成するうえで間違った選択になると考えています。
観光客の多くは都市部にいるので都市ホテルブランドのOMOは必要なのです。今の若者が将来の国内旅行市場を支えるわけですから、若年層に早く星野リゾートのファンになってもらうという戦略を担うBEBの導入も大事な戦略です。既存の分厚い50~60代向け市場に向けたブランドイメージを大事にしすぎると、あるべきブランド体系へのプロセスが遅れます。将来あるべき姿へシフトしていく過程では、そこに少なからぬハレーションが起こるのですが、それを経営状態が良い時に果敢に実行すべきなのです。この移行期はスピード感を持って駆け抜けていくのが大事で、まさに今、課せられている問題だと思います。
池田 新しいブランドを若年層に浸透させるために、どんな手を打たれていますか?
星野 若い世代にとっては、やはり価格はシビアな問題です。ホテル業界では、満室が見込める土曜日や大型連休期間などは室料を高く設定し、平日は安めにして稼働率を高めるという繁閑差に応じた価格設定が定着していて、さらに予約状況に応じて価格をこまめに上下させるダイナミックプライシングが一般化しています。
これに対して、若年層をターゲットとするBEBについては、29歳以下向けに季節や曜日を問わず宿泊料金を365日同一にする「エコひいきプラン」を用意しています。1室1泊1万6000~1万8000円台なので、29歳以下の仲間3人で宿泊すれば、1人5000~6000円台で宿泊可能です。ゴールデンウイーク中でも、お盆でも連休でも平日でも全部同じ料金という分かりやすさは良い反応を得ています。
「ここに泊まってみたい」と思っても以前アクセスしたときと料金が違っていたり、土日に宿泊したくても高かったり、もっと安いプランが出ていないかチェックしたりするのは面倒で、特に若年層の旅の検討意欲を下げてしまいます。つまりマーケティングミックスの4Pの1つであるPriceが変動し過ぎるということは、商品そのものが常に変化してしまいターゲットを外しているということなのです。
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