インターブランドジャパン(東京・渋谷)が発表した「顧客体験価値(CX)ランキング」で、2021年1位、22年2位と圧倒的な強さを見せた星野リゾート(長野県軽井沢町)。人気書籍『売上の地図』の著者、トライバルメディアハウス(東京・中央)代表取締役社長の池田紀行氏が、星野リゾートのSNS活用について星野佳路代表に迫る。

星野リゾート代表 星野佳路氏(右)、トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏(左)
星野リゾート代表 星野佳路氏(右)、トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏(左)

トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏(以下、池田) 先日、星のや富士に宿泊しまして、ぜいたくな時間を過ごすことができました。これが星野代表のおっしゃる「教科書通りの経営」を体現したものかと感じ入った次第です。写真もたくさん撮りました。

 さて、人が「旅に出たい」と思ったとき、かつてはまず検索エンジンでしたが、SNSの時代に入って以降、世代にもよりますがInstagramから写真で探すような変化が起きています。星野リゾート全体の戦略の中で、ソーシャルメディアの位置づけや活用について、星野代表はどのように考えていらっしゃいますか?

星野リゾート代表 星野佳路氏
星野リゾート代表 星野佳路氏
星野 佳路(ほしの よしはる)氏
星野リゾート 代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。同課程を修了し帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、所有と運営を一体とする日本の観光産業において、いち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。現在の運営施設は「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に、国内外59施設に及ぶ(2022年7月末時点)。国内外でテレワークを実践するとともに、年間60日以上のスキー滑走を目指している。

星野リゾート代表 星野佳路氏(以下、星野) 長い経営学の歴史の中で、SNSの活用は理論的にはプリミティブ(原始的)と言いますか、まだ分かっていないことが多く、正しい手法が確定できていない段階だと思っています。おそらく10年後、20年後、30年後からふり返ってみると、「何をやっていたのだろうか」「なぜ気づかなかったのだろうか」と思うかもしれません。

 1970年代にフィリップ・コトラーがマーケティングミックスを提唱し、80年代にデービッド・アーカーがブランドエクイティを唱え、90年代に入ると顧客満足度経営が言われて、ワン・トゥ・ワンマーケティングが登場するといった具合にマーケティングが変化、進化してきた流れの中でSNSを見ると、やはり「まだ確立できていない」というのが私の感触です。

 もちろんSNSの活用が重要で影響力を持ってきていることは分かるのですが、だからといってやみくもに他社と同じことをやっていればいいわけでもない。どこかまだ見えないところに最適な活用方法があって、そこにすぐにはたどり着けなくても、模索しながら進めないと、自社のノウハウにはなり得ないだろうと考えています。

トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏
トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田紀行氏
池田 紀行(いけだ のりゆき)氏
トライバルメディアハウス 代表取締役社長
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業のデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングの支援実績を持つ。宣伝会議、日本マーケティング協会マーケティングマスターコース講師。新刊『売上の地図』(日経BP)のほか、『次世代共創マーケティング』(SBクリエイティブ)、『キズナのマーケティング』(アスキー・メディアワークス)など著書・共著書多数。

池田 なるほど。先日、星のや富士に宿泊した際にスタッフの方からうかがったのですが、新型コロナウイルス禍以前に宿泊が多かった外国人観光客の方々はやはりInstagramをかなりチェックしたうえでいらっしゃるということです。まず宿の存在を知る、そして料金は高めだけれども「これは行ってみたい」という意向を上げていく、態度変容をもたらすという点で、宿泊先選びにSNSは大きな影響を持っているのは間違いないようです。SNSは集客ツールのみならず、宿泊者がその体験をクチコミ投稿することでレビューが蓄積されて大きな影響力を持つ面もあります。

星野 これまでもSNSについては、試行錯誤しながら活用してまいりました。私は企業が運用する公式SNSアカウントから発信している情報・内容は、顧客側には広告にしか見えていないだろうなと思っています。SNS上では、企業発より顧客が発している情報のほうが信用性は高い。先ほどの星のや富士にしても、「Instagramを見て来ました」というお客さまは、公式アカウント発の情報よりも、直接知らない宿泊経験者の感想に影響を受けているわけですね。そして、その感想やコンテンツは当然コントロールできません。

 クチコミやお薦め情報がインターネット上で拡大、拡散するのはその通りですが、クチコミそのものはインターネット以前からあるもので、昔も今もコントロールできません。結局のところ重要なのは顧客満足度であり、現場をコントロールしているのは私たちですから、そこの顧客体験がしっかり提供できていれば、おのずと悪いクチコミより良いクチコミが上回る。そこはコントロールが可能な範囲です。それ以上、意図的にオンライン上で顧客同士のコミュニケーションを広告費か何かでコントロールするのは難しいだろうと思います。

池田 もし自分が星野リゾートのマーケティング責任者だったら何をやるだろうか? と考えると、公式SNSアカウントは現状通りやるとして、予約前段階の人が一番気にするポイントは「ここに宿泊することで本当に最高の体験ができるのか?」だと思います。決して安くはない宿泊料で、特に海外からの訪日であればなおさら失敗したくない。徹底的にネットのクチコミを見まくる。そこで参考にするユーザーレビューやレコメンドが何によって生まれるのかといったら、おっしゃる通り、宿泊者の宿泊体験がそのまま出てくるので、従来通り感動体験をもたらすよう接客を徹底する。

 そのうえで、感動体験が量的にも多く出回るように、各施設で写真映えするスポットを用意して、そこに「よろしかったらお撮りしますよ」と声かけするようなスタッフ教育を施しておけば、投稿意欲が高まって、量も質も向上するのではないか。星野リゾート各施設の日本語ハッシュタグは多いのですが、それに比べると英語のハッシュタグは多くないのでそこも強化ポイントかなと思いました。

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