TikTokが若年層に対する性被害や詐欺を防ぐ取り組みを強化している。これまでも若者が安心して使えるコミュニケーションツールとして、さまざまな施策を行ってきた。その最新動向とプラットフォームとしての責任や役割について聞いた。

若者を性犯罪や詐欺から守る安全啓発キャンペーンに参加する公募クリエイターたち。写真左からTikTok Japan 執行役員 公共政策本部長の山口琢也氏、NPO法人「ぱっぷす」の内田絵梨さん、みりんさん、モフモフモ―の2人
若者を性犯罪や詐欺から守る安全啓発キャンペーンに参加する公募クリエイターたち。写真左からTikTok Japan 執行役員 公共政策本部長の山口琢也氏、NPO法人「ぱっぷす」の内田絵梨さん、みりんさん、モフモフモ―の2人

 動画投稿アプリ「TikTok」を運営するバイトダンスの日本法人(以下、TikTok Japan)は2022年7月19日、青少年が安心安全にTikTokを利用できるための新たな啓発キャンペーンに関する発表会を開催した。夏休みが始まる7月はネット利用が増加し、出会いに関するトラブルが起きやすい。また、7月は内閣府が推進する「青少年の非行・被害防止全国強調月間」であることも、キャンペーンを実施する理由の1つだ。

 今回のキャンペーンで重点を置くのは、「自画撮り被害」と「ネット詐欺」。自画撮り被害とは、だまされたり脅されたりして自分の裸などの写真を送らされる被害のこと。警察庁の調査によると、21年(令和3年)における児童ポルノ事犯の被害態様で最多の35.3%をこの自撮り被害が占めている(※調査では18歳未満を「子供」「児童」としている)。一方、ネット詐欺に関しては、若者がだまされやすい「ゲームアカウント詐欺」を中心に啓発する。ゲームアカウント詐欺とは、レアアイテム付きのレベルが高いゲームアカウントを買わないかと持ちかけられ、アカウントは得られず料金だけ支払わされる被害だ。

TikTok Japan公共政策本部長の山口琢也氏
TikTok Japan公共政策本部長の山口琢也氏

 TikTokはこれまでも青少年に向けた啓発キャンペーンを行ってきた。21年には成年年齢引き下げ啓発プロジェクト「大人になるってどういうコト?」を法務省民事局と連携して実施。22年2月には「#大切なひとを守ろう」をテーマに性被害の啓発動画を発信し、続く3月には性や妊娠での悩みに関する啓発動画の発信や相談先のサイトを周知させる「#みんなの保健相談」など、多くの若者にリーチするプラットフォームとして、安心・安全対策に積極的な姿勢を示している。

自画撮り被害のワークショップを開催

 今回のキャンペーン期間は7月19日~8月12日まで。若者に影響力のあるお笑いタレントや人気クリエイターが啓発メッセージを配信する。さらに公募によって選出された5人のクリエイターが動画を作成し、啓発を促すのも特徴だ。TikTokは公募で集まったクリエイターに対し、NPO法人「ぱっぷす」による、自画撮り被害についてのワークショップを開催した。啓発動画の作成前に、専門家の知識をクリエイターに伝えるためだ。

NPO法人「ぱっぷす」相談支援員の内田絵梨さん
NPO法人「ぱっぷす」相談支援員の内田絵梨さん

 NPO法人ぱっぷすは、デジタル性暴力に遭った人や、アダルトビデオ業界・性産業に関わって困っている人の相談窓口となっている団体だ。相談支援員である内田絵梨さんは、性的な写真や動画を「とる」「もつ」「みせる」「みる」のすべてが性暴力だと強調する。写真を撮り、それを所有し、誰かに見せる。そして、撮った人が見ることも性暴力につながる。なぜなら、被写体となった人が自分の体をどうするかについては、本人が意思決定の権利を持っている。それにもかかわらず、性的な写真や動画では自分以外の他人がその決定権を持ってしまうからだ。

性的同意が侵害されコントロールが奪われた状態は性暴力(デジタル性暴力)
性的同意が侵害されコントロールが奪われた状態は性暴力(デジタル性暴力)

 ワークショップでは、ぱっぷすとNHKが協力して行った自画撮り被害の調査の様子も発表された。「14歳の中学3年生の女子で甘いものが好きな受験生」という架空のSNSアカウントを作成し、「友達が欲しいな」と投稿したところ、約3カ月間で200人近くがメッセージを送ってきたという。

 自画撮り被害では、段階を踏んで子どもを手なずけていく「グルーミング」が行われるケースが多い。最初は優しく近づいてきて、何度もやり取りを重ねながら子どもからの信頼を得た頃に、性的な交渉を持ちかける。子どもの心の隙間にじわじわと入り込み、罪悪感や孤立感、羞恥心を利用するのが特徴で、自画撮りを送った子どもに対し、送らせた相手が悪いのではなく、送った自分が悪いと感じさせてしまうのが怖いところだ。

自画撮り被害の調査で寄せられた加害者からのメッセージの一部
自画撮り被害の調査で寄せられた加害者からのメッセージの一部

 言うまでもなく、悪いのは子どもではなく、自画撮りを送らせた加害者だ。ぱっぷすは自画撮りを含めた性被害の相談を、24時間365日無料で受け付けている。

 ワークショップに参加した後、公募クリエイターの「みりん」さんは、「若い女の子のフォロワーが多いので、自分のアカウントは適しているのではと考えた。社会に貢献できたらと応募した」と答えた。同じく2人組の公募クリエイター「モフモフモ―」さんは「加害者とのやり取りを見たとき、寒気がするほど衝撃を受けた。何としても防ぎたいと思った」と語った。

 ハッシュタグ「#大切なひとを守ろう」では、自画撮り被害を防ぐため、クリエイターたちが工夫を凝らした動画が見られる。キャンペーンでは、TikTokユーザーも啓発に参加できるように、動画に貼り付けられる専用ステッカーを用意した。

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