通常の即席麺とは異なり、お湯をかけずにそのまま麺を食べられる「0秒チキンラーメン」。日清は「かじる」という商品の特徴を最大限に訴求するため、CMで大胆なアプローチを取った。キャラクターに起用した高橋ひかるを一言もしゃべらせず、映像は1カットのみ。さらに背景画面はなぜか真っ黄色……。CMとして成立するのか疑問に思うほどの構成だが、その裏には日清の緻密なこだわりがあった。

0秒チキンラーメンの新CM「チキンかじり虫」編。高橋ひかるが商品ただひたすらかじる内容に
0秒チキンラーメンの新CM「チキンかじり虫」編。高橋ひかるが商品ただひたすらかじる内容に
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一見「雑な演出」も、戦略のうち

 「ドラマやトーク番組、バラエティーなどで引っ張りだこの高橋ひかるさんを、あえてセリフなしで登場させるのは、斬新でぜいたくな起用方法として面白い。しゃべりのうまい高橋さんが、ただ0秒チキンラーメンをかじるだけで30秒のCMが終わったら、ユーザーの気を引けると思った」——。

 日清食品ホールディングス宣伝部主任の鈴木裕氏は、同社が2022年4月4日に発売した「0秒チキンラーメン」のテレビCMについてこう語る。0秒チキンラーメンは通常の袋麺とは異なり、お湯を使わなくても、そのまま食べられる新製品だ。チキンの風味がただよう定番の味つけだが、塩分を通常の袋麺に比べて50%カット。素の状態で食べてもしょっぱくないように設計した。おつまみ、おやつ、主食、どれにでもはまる手軽な“万能商品”だ。

素のままの状態で食べられる0秒チキンラーメン。メインのターゲット層は20〜30代の若年層。「高橋氏を起用した一因も若年層にとってなじみが深いから」と鈴木氏
素のままの状態で食べられる0秒チキンラーメン。メインのターゲット層は20〜30代の若年層。「高橋氏を起用した一因も若年層にとってなじみが深いから」と鈴木氏
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 これまでありそうでなかったアイデアから生まれた0秒チキンラーメン。売れ行きは好調で、日清食品によれば発売1週間で当初の月間販売予定数量に達し、店頭販売は見込み数量の2倍以上で推移。4月27日には十分な供給量を確保できなくなったことから販売を一時休止し、その後7月25日に販売を再開した。

 そんな0秒チキンラーメンのヒットを後押ししたのが、キャラクターに高橋ひかるを起用したCMだ。冒頭の鈴木氏の発言にもあるように、CM内で高橋ひかるは終始無言を貫く。しかも30秒間カットは変わらず、背景もずっと真っ黄色のまま。商品を訴求するための演出は、「子どものおやつに!」「おつまみに!」「塩分50%オフ!」「そのままかじる専用!」といった文言が描かれたスタンプが出現するだけだ。初めて見ると“投げやり”な印象さえ受けるが、もちろんそれも戦略のうちだ。

高橋ひかるが終始0秒チキンラーメンをかじり続ける。CMの撮影は3~4時間ほどで終わったというが、その間に高橋氏は計143回も0秒チキンラーメンをかじったそうだ

 「0秒チキンラーメンの最大の特徴は『かじれる』ところ。即席麺としてはこれまでにない形態の商品なので、ユーザーに食べ方を伝えるためにも、とにかくかじる様子を最大限に印象づけた。セリフをなくして、装飾は極力取り除き、ただひたすらに麺塊(乾燥した麺の塊のこと)をかじる。そうすることで直感的に商品特徴が伝わり、視聴後にインパクトを残すことができた」(鈴木氏)

シンプル過ぎる演出が「かじる」を際立たせる

 0秒チキンラーメンのCMで見せたシンプル過ぎる演出は、かじることを前面に押し出すためのお膳立てというわけだ。

 「当初は公園を歩きながらかじったり、季節や昼夜が変わってもかじり続けたりするプランもあった。ただ『かじる』特徴を訴求すると考えると、単調な背景をバックに、商品をかじる高橋さんを正面から映し続けるほうがシンプルで伝わりやすい。『お湯をかけずに食べられる』『ひよこちゃんのパッケージがかわいい』など伝えたい要素は多々あったが、それでも『かじる』ポイントをぶれずに押し出し、どんどん演出をそぎ落としていった」と鈴木氏。