2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするという「カーボンゼロ」を宣言する自治体が急増している。環境省によると、宣言した自治体は22年6月末現在、749に及ぶ。これら自治体人口を合計すると、総人口の9割以上をカバーするという。先進的な取り組みで成功モデルとなっているのが、高知県梼原(ゆすはら)町だ。
2009年にいち早くカーボンゼロを宣言した山梨県を皮切りに、19年になると東京都や大阪府、横浜市、京都市などが表明。都道府県と市町村レベルが混在しているが、500余りの自治体も21年以降に宣言するに至っている。20年秋、当時の菅義偉内閣による2050年のカーボンゼロ方針を受けて、足並みをそろえたもようだ。
各自治体のカーボンゼロ化施策には、再生可能エネルギーの有効利用や森林、農地を活用したCO2吸収などが見られるものの、どのように経済性を確保した持続的な取り組みとして築くかは不透明に見える。言葉を換えれば、「宣言のみが先行した」きらいが否めない。
カーボンゼロの新技術としては、火力発電に伴うCO2の吸収・固定化技術の研究開発が盛んだが、そもそも日本のCO2吸収量(約5590万CO2トン)の84%は森林によるもの(18年度、林野庁)だ。2030年度に26%減(13年度比)という国全体の温暖化ガス排出削減目標が当面の課題で、そのうち1割程度に相当する約2%は森林吸収が担う。だが長い間、安価な輸入木材に押されて国産木材の需要が冷え込み、手つかずの放置された人工林がこれまで増え続けてきた。
現在運用されているパリ協定では、京都議定書の森林吸収の考え方を用いることができる。CO2吸収量に算入可能な森林は、90年以降、新たに植林したか既存の人工林をいったん伐採して再植林したか、あるいは間伐などの適切な育成(森林経営)を施したもの。伐採した木材も利用されればCO2吸収量にカウントできるので、人工林の高齢級化が進む日本では、再植林したり、他の方法よりコストのかからない「森林経営」によって森を整備したりする必要がある。
こうしたハードルをいかにクリアするか。その解決のためのヒントとなるのが、高知県梼原町の長年の取り組みである。同町もカーボンゼロを宣言した自治体の一つだ。
四国の小さな山村が成功させた「グリーン循環」
JR高知駅から在来線で西へおよそ1時間半、さらに路線バスに揺られ北へ山道を行くこと1時間半ほど。四国カルストの懐に、人口3300人余りの梼原町がある。この小さな町は9割方が森林で、1990年代から独自の「グリーン循環」の仕組みを当時の町長主導でスタートした。
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