アサヒビールが提案する新しい飲み方のスタイルであるスマートドリンキング、略して「スマドリ」を推進するために、アサヒビールと電通デジタル(東京・港)が組んだ。2022年1月に合弁会社スマドリ(東京・墨田)を設立。具体策として、近日中に東京・渋谷にバーをオープンする。21年末時点でスマドリの認知率は20%程度だが、25年までに2倍に高めることを目指す。飲めない人も飲める人も、分け隔てなく楽しめる飲酒のあり方とは、どのようなものなのか。その全容を聞いた。
アサヒビールのコマーシャルの冒頭に「スマドリ!」というワードが流れるのを聞いたことがある人もいるのではないだろうか。スマートドリンキング、略して「スマドリ」は、アサヒビールが提唱する新しい飲み方のスタイル。飲み方の多様性を浸透させ、酒を飲む人も飲まない人も自由に楽しみ、互いに尊重し合える社会を目指すものだ。
スマドリを推進すべく、22年1月にはアサヒビールと電通デジタル(東京・港)の合弁会社スマドリ(東京・墨田)が誕生した。デジタルを活用し、酒を飲まない・飲めない人に焦点を当てたマーケティングを行う会社だ。1889年の創業からこれまで、酒を飲む人向けに事業を展開してきたアサヒビール。130余年を経た新たな挑戦の全容とは。スマドリ社長の梶浦瑞穂氏と電通デジタルのアカウントイノベーション部門アカウントマネジメント部プロデューサーで、スマドリ顧問の濱田美晴氏に話を聞いた。
飲めない4000万人のための新会社
あえて飲酒をしないスタイルを指す「ソーバーキュリアス」の世界的な高まりや、飲酒による不適切な行動を防ぐ「レスポンシブルドリンキング」の考え方の必要性、健康志向の高まりなど、アルコールと消費者の関わり方が変わりつつある。そうした流れをくんで、アサヒビールではスマートドリンキングを推進するための議論が長らく行われていたという。その中の施策の一つとして、スマドリ社設立の構想があった。
これまでアサヒビールは基本的に酒を飲める人を対象とした商品をつくってきた。ノンアルコールや低アルコールをうたう商品であっても、飲める人が「クルマの運転」などを理由に、飲めない、あるいは控えめにしたいシチュエーションで代替品として飲むことを想定した商品が中心だった。だが、それでは市場全体の半数にしかアプローチできていなかった。
アサヒビールは調査から20~60代の人口約8000万人のうち、普段から飲酒するのは約4000万人と見積もっている。残る約4000万人は、これまでアサヒビールの顧客ではなかった。そこで、新市場を開拓するために21年から「ビアリー」や「ハイボリー」といった、微アルコール飲料の開発に力を入れている。だが、まだまだ広がりは少ない。スマドリをさらに推進するためのマーケティング組織として新会社は生まれた。
構想を実現し、社内の一組織としてではなく独立した理由を梶浦氏はこう語る。「会社化することで、意思決定のスピードが上がるし、スマドリ事業だけに集中できる。また、アサヒビールが持っているデータは、お酒を好んで飲むことが前提の顧客データや消費者調査で、飲めない人に特化したものはほとんどなかった。さらにアサヒビールの社員は自分を含めて大半が飲めるため、飲めない人の気持ちが分からない。マーケティング会社として機能し、お酒を飲めない人たちと接触するには、デジタルが不可欠だと考えた。また、飲めない人の気持ちが分かる社外の人が必要だとも考えていた」
これまでもアサヒビールは、ノンアルコールや低アルコールの商品を販売していたものの、それらは妊娠したときや運転する日など、飲める人が飲めなくなるシチュエーションを想定してつくられたものだった。「飲めない人はどのような味や時間の過ごし方が好きで、どういう商品に接触しているのか。飲酒に対してどのような考えを持っているのか。ノンアルに興味があるのかすら分からなかった」(濱田氏)という。
商品や店舗を通じた接触データを保持していない分、デジタル上でのコミュニケーションがデータを集めるうえでの肝となる。アサヒビールに出向中だった濱田氏がスマドリの考え方を知り、電通デジタル内でも共感を得たことから、デジタル事業に特化した同社との合弁としてスマドリ社が設立された。
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