リアルな拠点を持たないブランドやエリア限定の店舗などが、期間限定で展開することが多いポップアップストア。固定店舗を出店するよりもコストを抑えて消費者とつながれる場とあって、活用する企業も多い。そんな中、ポップアップストア出店で過去に失敗をし、その後戦略を転換してリベンジを果たした静岡県発のD2Cソファブランドがある。失敗と成功の分岐点を追った。
D2Cブランドやローカルビジネスを展開する企業が、ポップアップストアを東京で展開する事例が目立つ。新商品のプロモーションやブランド全体の認知度向上などを狙うのが定石の中、変わった切り口でポップアップストアを展開し、ファンとつながるのが、静岡県裾野市発の自社製造のオリジナルソファD2Cブランド「MANUALgraph(マニュアルグラフ)」だ。
ポップアップストアが開かれたのは、2022年3月25日と26日、東京・銀座の「The Crafted」(22年3月末で閉店)。たった1.5日間という極めて限られた時間の中、1台数十万円もする国産ソファが3台売れたという。
MANUALgraphを運営するフジライト代表の鈴木大悟氏が、このポップアップストアで最も大切にしたのが、「誰のためにポップアップストアをやるのか」ということだ。
「認知度拡大は狙わない」 70人にのみ開催を事前通知
その目的とは、「既にMANUALgraphのソファに興味を持っている人たちのために開催する」(鈴木氏)ことだ。ポップアップストアの目的としてありがちな新規顧客との出会いを主目的から外し、あえてつながりのある顧客との交流の場と割り切った。
実際、ポップアップストア開催の案内としてDMを送ったのは、直近半年間にMANUALgraphのECサイトで商品に関する問い合わせやサンプル請求をした約70組のみ。購入を真剣に検討している特定の顧客のために、検討中の商品をわざわざ持参するという特別なサービスも実施した。結果的に、約70組のうち12組が実際に来場し、3件の販売につながった。さらに、TwitterなどのSNSを通じてその他に約20組が来場し、コミュニケーションを取ることができたという。
MANUALgraphのソファは、静岡県にある自社工場で、職人によって一から作られており、20万円、30万円の商品も珍しくない。高額商品ゆえに、実際に座ってもらったり、生産者と直接コミュニケーションしたりする体験が、購入の最後の一押しになったのだ。
5年前の東京初のポップアップストアはまさかの大失敗
今回のポップアップストアの成功の陰には、鈴木氏の苦い経験が生かされている。実は同社は、過去に東京でポップアップストアを一度だけ展開したことがあり、「大失敗した」(鈴木氏)という。ポップアップストア展開を考えたのは、オリジナルブランドのMANUALgraphを13年に立ち上げてから4年ほどが経過し、地元を中心にある程度知られるようになり、さらに通販にも対応したことで全国の消費者に認知度を広げたいと考えたからだ。
17年の県外初のポップアップストアは東京・代官山で5日間、開催した。D2Cで先行していた同業他社が同地でのポップアップストアを成功させていたことも、鈴木氏を後押しした。
だが、人気スポットでポップアップストアをやればばんばん売れるだろうというもくろみは、見事に打ち砕かれる。
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