2022年4月は「売らない店」の開店が相次いだ。代表格である「b8ta(ベータ)」を展開するベータ・ジャパン(東京・千代田)は22年4月27日、東京以外では初となる4店舗目を埼玉県越谷市の商業施設「イオンレイクタウンkaze」にオープン。新店に合わせて、製品をレンタルして自宅で試せるサービスを始めた。同4月29日には高島屋が手掛ける初のショールーム型店舗「Meetz STORE(ミーツストア)」がオープン。百貨店ならではのギフトを強みに、新たな顧客層の開拓を狙う。

ベータ・ジャパン(東京・千代田)の新店(左)や高島屋が「売らない店」の新店(右)が続々とオープンした
ベータ・ジャパン(東京・千代田)の新店(左)や高島屋が「売らない店」の新店(右)が続々とオープンした

 b8taの新店舗「b8ta Koshigaya Laketown」が、22年4月27日にオープンした。国内4店舗目は、埼玉のイオンレイクタウンkazeエリアに出店。アジア初やオフライン展開初を含む46ブランドの商品が、国内外から集まっている。

 ベータ・ジャパンが都心以外に初めて出店した狙いは、ファミリー層の開拓だ。イオンレイクタウンkazeの21年年間来場者数は約5000万人で、新型コロナウイルス禍以前の東京ディズニーリゾートの年間来園者数をしのぐ。商圏人口は600万人以上で、周辺居住者のボリューム層は35~54歳だ。今回の出店では新宿、有楽町、渋谷の既存3店ではリーチが難しかったファミリー層へのアプローチを狙う。

 店舗はイオンレイクタウンkazeエリアの入り口を入って、すぐに目に飛び込んでくる。「店前の通行量が施設内でもかなり多く、目立つ位置への出店を実現できた」とベータ・ジャパン(東京・千代田)代表取締役の北川卓司氏は言う。また、同一区画には、スターバックスコーヒーの店舗が並ぶ。同店で購入したコーヒーを片手に来店でき、地域の出会いの場となるような空間をテーマとして設計したという。

ベータ・ジャパンは22年4月27日に、ショールーム型店舗「b8ta」の国内4店舗目を埼玉の商業施設「イオンレイクタウンkaze」内にオープンした
ベータ・ジャパンは22年4月27日に、ショールーム型店舗「b8ta」の国内4店舗目を埼玉の商業施設「イオンレイクタウンkaze」内にオープンした

家電レンタルサービスと協業し新サービスを開始

 新店舗最大の特徴は、家電レンタルサービス「レンティオ」を展開するレンティオ(東京・品川)と協業した新サービスだ。レンティオとは、カメラや家電を中心に、約3000種類のアイテムをオンラインで申し込んでレンタルできるサービス。気になる製品をレンタルして自宅で試すことができ、気に入ればそのままレンティオから購入もできる。家電などの高額商品を買うときに失敗したくないというニーズに応えて人気を集め、月間利用者数は約8万5000人に上るという。

 b8ta Koshigaya Laketownには、レンティオと連携した「ライブキッチンスペース」を常設する。このキッチンにはシャープの自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」やウォーターオーブン「ヘルシオ」、調理家電メーカーのシロカ(東京・千代田)の食器洗い乾燥機などの製品を展示する。通常時はb8taのスタッフが調理を行うが、予約制で来店客も実際にそれらの家電を使って調理を体験できるという。実際の調理工程までを体験できる試みはb8ta初となる。

 店舗での製品利用体験にとどまらず、来店者が希望すればレンティオ経由で製品をレンタルして、自宅で試せるのが今回の協業における最大のポイントだ。気になる製品があったら、来店客自身のスマートフォンなどでレンティオのサイトにアクセスし、 b8taスタッフから操作のサポートやクーポンの案内を受けながら申し込む。例えば、シャープのヘルシオ ホットクックは新品が月額1980円(税・往復送料込み)、レンティオ製の小型冷凍庫は新品が月額780円(同)から借りられる。午後5時までに申し込めば、翌日には自宅に製品が届く。レンタル期間が終了した後は、購入か返却を選択できる。

 今回レンティオと協業した理由を北川氏はこう語る。「体験型ストアとして我々も来店者に商品をなるべく触って楽しんでいただけるようにしているが、いざ購入を検討するとなると、自宅のキッチンに対してサイズが大きすぎるのではないか、といった理由で悩むことがあるだろう。そうした際にレンタルして、自宅で試すことができると購入へのハードルが少し下がる。購入に感じる不安を少しでも軽減できるような取り組みを実現したかった」

 ベータ・ジャパンは自社でもレンタル事業を検討したことはあるものの、在庫を抱えなくてはならないなどの懸念点があったという。そこで、家電のレンタル業では一日の長があるレンティオと手を組んだ。

家電レンタルサービスを展開するレンティオ(東京・品川)と協業したライブキッチンスペースは、b8ta新店舗最大の特徴だ
家電レンタルサービスを展開するレンティオ(東京・品川)と協業したライブキッチンスペースは、b8ta新店舗最大の特徴だ

 b8taは製品そのものを知らない非認知層、もしくは製品やブランドのことを認知しているが実際には触ったことのない層が体験できる場だ。商品購入のプロセスを「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」という4段階のマーケティングファネルに分けた場合、認知と興味・関心を担うのがb8taとなる。

 一方、レンティオは既に製品を認知し、興味を持っている層が、さらに理解を深めるための機会を提供する。さらに自宅で使って気に入れば、そのまま購入できる。つまり、マーケティングファネルにおける比較・検討と購入をつかさどるサービスと言える。ともすれば競合のようにも思える両社だが、異なる層へのアプローチを同じ空間内で実現することで「共創関係になれる」(北川氏)と考えたわけだ。

商品購入のプロセスを「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」という4段階のマーケティングファネルに分けた場合、認知と興味・関心をb8taが担い、比較・検討と購入をレンティオが担う
商品購入のプロセスを「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」という4段階のマーケティングファネルに分けた場合、認知と興味・関心をb8taが担い、比較・検討と購入をレンティオが担う

ドイツ発のミールキットがアジア進出の足掛かりに活用

 調理家電以外にも、b8ta Koshigaya Laketownにはアジア初出品ブランドやオフライン展開初を含む、さまざまな商品が出展している。例えば、ドイツ発ミールキット宅配サービスの「HelloFresh」は、今回の出展がアジア初進出となる。HelloFreshは21年に、全世界で累計約10億食のミールキットを提供し、世界で約720万人が利用する。

 日本参入に当たり、日本市場に特化したプロダクト開発チームを日本に設けて、和食と海外の料理を融合したメニューを開発し、市場開拓を狙う。b8taでは実際のキットに同梱されるレシピカードなどを展示して、家事の負担を下げるミールキットを訴求する。ターゲットであるファミリー層の目に留まるだろうか。

 オンライン発のブランドで、今回がオフラインでは初出展となる商品もある。日本ハムが22年4月に販売を開始したウエルネスブランド「Table for All」の食物アレルギー対応製品と、肉を中心とした商品のECサイト「Meatful」で扱うビーフジャーキーブランド「DRY MEATS」はその一例。DRY MEATSは牛、豚、鶏、羊(ラムとマトン)、合がもの肉を使った6つの商品を展開する。手軽に持ち運びやすいデザインのパッケージにすることで、酒のつまみという印象が強かったビーフジャーキーを新たな軽食として提案する。

日本ハムが展開するウエルネスブランド「Table for All」の食物アレルギー対応食品と、肉を中心とした商品のECサイト「Meatful」で扱うビーフジャーキーブランド「DRY MEATS」はオフラインでは初の展示となる
日本ハムが展開するウエルネスブランド「Table for All」の食物アレルギー対応食品と、肉を中心とした商品のECサイト「Meatful」で扱うビーフジャーキーブランド「DRY MEATS」はオフラインでは初の展示となる

 こうしたブランドが商品をb8taに出展する展示スペースは、幅が従来の倍の広さながら出展料はこれまでと同額の月30万円(税別)で「出展料は実質半額」(北川氏)となる。新たな顧客層の開拓や、広いスペースを使った展示方法で商品をアピールしたい企業・ブランドが出展しやすい料金体系で提案する。

 米国では22年2月に米b8taが全店閉店したことが話題になった。ベータ・ジャパンはそれに先駆け、b8taから商標権とソフトウエアのライセンスを取得して、独立企業として事業を展開してきた。b8ta Koshigaya Laketownは、ベータ・ジャパンの独立後、初めてオープンする店舗となる。22年6月には資金調達を控え、新事業の開発やアジア進出を目指すことを発表している同社。独自の路線で売らない店事業を推進していく考えだ。

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