岐阜県の“新名物”となりつつあるのが2020年に発売された、サツマイモを使ったスイーツ「壺芋(つぼいも)ブリュレ」だ。21年3月にECサイトで販売を始めると、用意した数量が2分で完売した。そのECサイトには、商品にまつわる説明文をわずかしか掲載していない。こだわりのある商品を扱うサイトなら、生産者の声などの情報を載せるのが他社との差異化を図る常とう手段だ。そうした王道とは正反対の“型破り”なECサイトでも、商品が飛ぶように売れる秘密に迫った。

 オンラインでの発売は自社ECサイトで週に1回のみ。仕入れ状況によって販売数は異なるが、用意した2000セットが数分で完売することもある。サツマイモを使ったスイーツ「壺芋ブリュレ」は入手困難になるほどの人気を集めている。

 この商品の開発の元となったのが、サツマイモを専用の壺でゆっくり炭火焼きすることで、芋の甘みを引き出す「つぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神」(岐阜県大垣市)の焼き芋だ。

 芋は壺で焼くことで、かむ力を不要とするほど柔らかくなるという。その焼き芋に、素材にこだわったカスタードクリームを合わせて開発した。柔らかくなった芋はくりぬかなくても、押し込むだけでくぼみができる。そのくぼみにカスタードを詰め、砂糖をかけてあぶり、ブリュレにしたのが壺芋ブリュレだ。時期によって使用する芋は異なるが、「紅はるか」と「シルクスイート」という人気の2種類を採用している。

「焼き芋ブーム」、一足早く東海圏に?

壺で焼くことで、芋本来の甘みをさらに引き出し濃厚な味わいになるつぼ焼き芋に、カスタードを詰めブリュレした「壺芋ブリュレ」。ECサイトでは、3本入り2680円(税込み)で販売している
壺で焼くことで、芋本来の甘みをさらに引き出し濃厚な味わいになるつぼ焼き芋に、カスタードを詰めブリュレした「壺芋ブリュレ」。ECサイトでは、3本入り2680円(税込み)で販売している
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 「欲望のままに頬張る」をキャッチコピーにしたこのスイーツは、2020年10月にリアル店舗で販売を開始。21年3月からは、自社ECサイトでも販売し始めた。ECサイトで購入する際は、250円(税込み)で別売りしているミニバーナーを併せて購入すると自宅でも本格的なブリュレを楽しめる。

 このスイーツを考案したのは、発売当時大学4年生だった出口峻佑氏だ。地方企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を行うIDENTITY(岐阜県美濃加茂市)で、インターン生として働きながらレンタルスペースを運営していたが、なかなか事業は軌道に乗らずにいた。集客を目指し、レンタルスペース内に小さな喫茶店をオープンするものの、今度は新型コロナウイルス感染症拡大に見舞われて、休業を余儀なくされる。なんとか状況を打破できないかと、集客につながる強い商品を探し求めていく中で、「焼き芋」に目をつけたという。

 焼き芋を選んだ理由には、IDENTITYが運営する東海地方の情報を発信するWebメディア「IDENTITY名古屋」が関係する。同メディアには名古屋在住の20~40代を中心に、年間で220万人超がサイトを訪れる。さらにInstagramの公式アカウントに12万人を超えるフォロワーを抱えるなど、東海地方の流行情報の発信源として人気を集めている。さらに消費者から流行情報を集めるためにハッシュタグ「#あいなご」で口コミを募り、ここに集約された情報をメディア運営やマーケティングリソースとして活用している。#あいなごには、22年4月時点で37万件を超える投稿件数が集まっている。

 壺芋ブリュレの開発を検討し始めた当時、#あいなごがついた投稿に芋系スイーツが増えていたり、その投稿に対するエンゲージメント数が伸びていたりする傾向があったという。

 このデータを基に、「東海圏で焼き芋がはやっていることが分かった」(出口氏)。ここ数年で都内でもサツマイモ専門スイーツ店が複数オープンするなど、全国的な焼き芋ブームと言える状況だが、「東海圏での盛り上がりは、それよりも早かった(と感じている)」と出口氏は振り返る。

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 東海圏でブームのけん引役になったと出口氏が考えているのが、壺芋ブリュレの主役、つぼ焼き芋を販売するつぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神だ。同店は、つぼ焼き芋を販売したい人の開業支援や、壺を使った焼き方の技術を伝える講習会も行っている。この活動がじわじわと東海圏で広がり、全国に先駆けた焼き芋ブームにつながったのではないか、というのが出口氏の見立てだ。

つぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神のウェブサイト。自社での販売のほか、開業支援や焼き方講習会も行っている
つぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神のウェブサイト。自社での販売のほか、開業支援や焼き方講習会も行っている
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 確かにつぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神の焼き芋は格別だ。しかし、出口氏は単に同商品を扱うだけでは、わざわざ喫茶店に足を運んでもらうのは難しいと考えた。そこで、もうひと手間かけた「ここでしか食べられないスイーツ」の開発を目指した。

 考えた末に行きついたのが、クレープの表面をブリュレした「クレープブリュレ」から着想を得た壺芋ブリュレだ。クレープ型にすることで、喫茶店に滞在しなくても紙に包んだスイーツを持ち帰ることができるため、テークアウト商品として販売も可能で感染対策にもなるだろうという狙いもあった。

UGCを増やしたSNSマーケ手法とは

 壺芋ブリュレはレンタルスペース内の喫茶店で販売を開始するやいなや、県外からも1日で250人が来訪するなど、購入を求める人で行列が絶えないスイーツとして一躍人気商品になった。人気に火をつけたのが、InstagramやTikTokなどのSNSだ。SNSで広まった背景には、ベースとなったつぼ焼き芋そのもののおいしさに加え、「SNS映えする見た目にある」と出口氏は分析する。

 壺芋ブリュレの商品の特徴の1つが、食欲をそそるインパクトのある見た目だ。定番スイーツのクレープのような形状と、一目で香ばしさが伝わるブリュレされた表面。そこにスプーンですくって食べるという、従来の焼き芋の概念を覆す驚きも手伝った。クレープのように片手で持てることから、スマートフォンでの撮影もしやすかった。

 そこでSNS映えする特徴を生かし、「食べたい」という衝動を瞬時に引き出し、購買へとつなげるためのSNSマーケティングに注力している。同社が取り組むSNSマーケティングは、主に顧客が投稿する口コミ、すなわちUGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ=ユーザー生成コンテンツ)の投稿促進だ。

Instagramで「壺芋ブリュレ」と検索すると出てくる投稿の数々
Instagramで「壺芋ブリュレ」と検索すると出てくる投稿の数々
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