アウトドアやスポーツ向け衣料品を扱う「ワークマンプラス」でアパレル業界を揺るがしたワークマンが、今度は靴小売業界に殴り込みをかける。2022年4月1日、大阪・難波にプライベートブランド(PB)シューズ専門の新業態「ワークマン シューズ」をオープン。高機能、低価格を武器に急成長するPBの一般靴で将来、業界4位のポジションを狙う。

大阪・難波のファッションモール「なんばCITY南館」に2022年4月1日開業した「ワークマンシューズ」。売り場面積は188平方メートル。真向かいの「#ワークマン女子なんばCITY店」と合わせると同社最大規模になる
大阪・難波のファッションモール「なんばCITY南館」に2022年4月1日開業した「ワークマンシューズ」。売り場面積は188平方メートル。真向かいの「#ワークマン女子なんばCITY店」と合わせると同社最大規模になる

毎年倍々ゲームで成長してきたシューズ

 「ワークマンシューズ」が出店したのは、2021年4月にオープンした「#ワークマン女子なんばCITY店」のちょうど向かい側。通路を挟んだ両店の売り場面積は合わせて518平方メートルで、同社最大規模だ。会計はどちらの店のレジでも可能で、2店舗が一体運営のようになっている。平日の午後に訪れると、中高年の男女を中心に2つの売り場をあちこち買い回る客の姿が多く見られた。

 「#ワークマン女子」はF1層(20~30代半ばの女性)の取り込みを狙い、女性目線の商品を前面に打ち出しているのが特徴だ。作業服の取り扱いはないものの、メンズのスポーツ・アウトドアウエアもそろい、ワークマンプラスと同じ商品が並ぶ。これまではその一角に靴コーナーがあり、レディースの機能性ウエアに次いで成長率が高い機能性シューズが売り上げをけん引していた。

真向かいの「#ワークマン女子なんばCITY店」。シューズコーナーを移転したため、キャンプギア売り場を33平方メートル増床し、店舗全体で330平方メートルに
真向かいの「#ワークマン女子なんばCITY店」。シューズコーナーを移転したため、キャンプギア売り場を33平方メートル増床し、店舗全体で330平方メートルに

 ちなみに#ワークマン女子は22年3月末時点で全国に12店舗を展開。4月に入っても続々新店をオープンしており、都心のモール内、郊外の路面店を問わず、どの店舗も好調に推移し、既存店舗に比べて1.5倍の売り上げを稼ぎ出している。「特にグループ会社のカインズとベイシアの敷地内の店舗は100%当たる。来期末には27店舗に増える計画だが、全店で成功する絶対的な自信がある」とワークマンの土屋哲雄専務は胸を張る。

 ワークマンシューズは、女性客からも圧倒的な支持を得たワークマンプラスのラインアップの中から、アイテムに特化した初の専門業態だ。21年3月期の一般靴の売り上げは前年比140%の100億円を突破。これまで売り場のワンスパンで展開してきたが、毎年倍々ゲームで成長していたという。さらなる成長が見込め、売り場の拡張が必要と判断したことから、靴の専門業態に乗り出したというわけだ。

 オープン以降、売れ行きは好調に推移している。#ワークマン女子との相乗効果はもちろん、ワークマンが手がける靴への期待が大きいことの表れだろう。「初日はそれほどでもなかったが、翌日の土日には、女性客を中心に長いレジ列ができるほど盛況だった。平日夕方はOL客が目立ち、バレエシューズやパンプスがよく売れている。セール期間の目標も達成できた」(広報部)

 女性客の潜在ニーズを引き出し、新たなマーケットを開拓できるか。ワークマンシューズの商品を分析しながら、人気の秘密を探っていこう。

カーボン入り厚底シューズが衝撃の2900円

 ワークマンシューズ1号店は靴だけでなく、働く女性の作業服を意識したタウンウエアも併せて展開し、初年度売上高は2億5000万円を目指す。今夏の商品はシューズ34アイテム、靴関連小物49アイテム、レディースウエア29アイテムをラインアップ。「ここで売れた上位15~20%の商品をワークマン全店に大量投入していく。そうすれば、既存店の靴売り場の効率が格段に高まる。既存店では販売していないカラーを投入するなどチャレンジや実験ができる」(土屋専務)と言う。

ワークマンシューズには、生地にはっ水加工を施して汚れを落ちやすくしたプリーツスカートなど、機能性の高いレディースウエア29アイテムがそろっている
ワークマンシューズには、生地にはっ水加工を施して汚れを落ちやすくしたプリーツスカートなど、機能性の高いレディースウエア29アイテムがそろっている

 オープン以来、特に売れているのが、同店で先行販売したカーボン配合プレート入りの「アスレシューズハイバウンスオーバードライブ」だ。価格は2900円(税込み、以下同)で、12日間ほどで予想をはるかに超える約300足を販売した。

 推進力を追求して走りに特化したモデルで、ソールに独自開発したカーボン配合プレートを内蔵。さらにミッドソールにも同社が開発した高反発素材「バウンステック」を搭載し、「反発力はスポーツブランドの上位品と同等かやや上回り、まったく遜色ない」(同社靴担当マーチャンダイザーの青木正志氏)。靴の幅はやや広め。また、厚底シューズはランニング初心者が履くとケガをするリスクもあるため、足を痛めない設計がされているのも特徴だ。

フルマラソンも走れるカーボンプレート入りランニングシューズ「アスレシューズハイバウンスオーバードライブ」(2900円)。アッパーは通気性に優れたスケルトン生地で、はく靴下の色で遊べる。240グラムと軽量
フルマラソンも走れるカーボンプレート入りランニングシューズ「アスレシューズハイバウンスオーバードライブ」(2900円)。アッパーは通気性に優れたスケルトン生地で、はく靴下の色で遊べる。240グラムと軽量

 同社がランニングシューズのPBを販売し始めたのは約6年前。第1弾は150グラムの超軽量シューズを980円で販売し、約60万足の大ヒットとなった。次にヒットしたのが「バウンステック」をソールに採用した高反発シューズ。こちらはタウン履きが目的だったため、ランニングで履くと戻りが弱い。そこで「もう少し反発力がほしい」という声に応えて誕生したのが第3弾の「ハイバウンス ドリブンソール」(1900円)だ。アウトソールの前後が反り上がったロッカー構造で、つま先とかかとの2カ所に硬さの異なるバウンステックを搭載することで、より推進力が高まった 関連記事:ワークマンの1900円ランシューが進化 『厚底』がヒット

ワークマンのランニングシューズは980円の超軽量シューズから始まり、顧客の声に応えて年々進化してきた。同社が独自に開発した高反発素材「バウンステック」を搭載したシリーズがそろう
ワークマンのランニングシューズは980円の超軽量シューズから始まり、顧客の声に応えて年々進化してきた。同社が独自に開発した高反発素材「バウンステック」を搭載したシリーズがそろう

 最新作のカーボンプレート入り厚底シューズは、さらにスピードを追求する市民ランナーに向けて開発された。「通常、スニーカーの開発には2~3年以上かかるところ、約1年半で開発した。女性サイズの生産も既に動き始めている」(青木氏)と言う。

 フルマラソンも走れるカーボンプレート入り厚底ランニングシューズは、ここ数年ブームが続いている。ナイキをはじめとする著名ブランドが1万~2万円台で販売しているのに対して、21年2月にはドン・キホーテが8789円で発売。ワークマンは競合他社の追随を許さない2900円という低価格を実現した。そのため、初年度の販売数は強気の約30万足を計画している。

店内には、ランニングシューズの履き心地や推進力を体感できるランニングマシーンを設置。滑らない靴の耐活性能を体験できるコーナーもある
店内には、ランニングシューズの履き心地や推進力を体感できるランニングマシーンを設置。滑らない靴の耐活性能を体験できるコーナーもある

 同社のPBは、平均5年間の継続販売を前提に企画されており、競合先が5年間は追い付けない高機能と圧倒的な低価格が強みとうたう。加えて、ユーザーの意見を代表するアンバサダーの声を商品開発に反映。ランニングシューズも、アンバサダーに60キロメートル以上走ってもらい、改良を重ねていった。

 カーボン入りランニングシューズと並び、ワークマンシューズで予想以上の売れ行きなのが、新たに発売した女性向けのPBシューズだ。前評判がなかったにもかかわらず、オープンから約12日間で1000足近く売れた。女性客から要望が多かったパンプスが2480円、バレエシューズ1680円、グルカサンダル1680円、レースアップシューズ1680円。「#ワークマン女子」の女性客を狙い、パンプスだけで売り上げの2割を占めると予想する。

 「パンプスも女性の仕事靴。長時間履いても痛くならず疲れないのがウリ」と土屋専務。1号店では、店頭に女性向けPBシューズを大量に陳列し、機能的なレディースウエアとのコーディネート販売にも力を入れている。

ワークマン初の、働く女子を応援する機能性シューズは、バレエシューズ、アクティブパンプス、グルカサンダル、レースアップシューズの4型。#ワークマン女子との相乗効果で滑り出し好調
ワークマン初の、働く女子を応援する機能性シューズは、バレエシューズ、アクティブパンプス、グルカサンダル、レースアップシューズの4型。#ワークマン女子との相乗効果で滑り出し好調

将来、靴小売業界4位を目指す

 ワークマンシューズには、他にも高機能のPB靴が多数そろう。例えば、もともとプロの料理人が履く厨房用シューズだった「ファイングリップシューズ」(1900円)は、SNSで話題を集め、年間約70万足を売る。靴底が平らで滑りにくく、脱ぎ履きしやすいため、小さな子供連れのママにも好評だ。キャンプのセカンドシューズとして重宝する「ライトスリッポン」(1500円)も、内装業などの職人向け作業靴をヒントに開発。かかとが踏めて着脱しやすく、はっ水加工が施された優れものだ。

 ワークマンの靴が一般客にも支持される理由について、土屋専務は「PBの靴がこれだけそろう靴専門店が他にない。しかもすべての商品が機能性を自慢としているから」と分析する。

SNSで人気に火がつき、年間約70万足を売るヒット商品「ファイングリップシューズ」(1900円)。元は厨房用シューズのため、雨の日の路面でも滑りにくく、子供連れでも安心
SNSで人気に火がつき、年間約70万足を売るヒット商品「ファイングリップシューズ」(1900円)。元は厨房用シューズのため、雨の日の路面でも滑りにくく、子供連れでも安心
かかとを踏める仕様で着脱が楽なうえ、はっ水加工が施された人気の「ライトスリッポン」(1500円)。屋内外の移動が多い内装業などの職人向け作業靴から生まれた
かかとを踏める仕様で着脱が楽なうえ、はっ水加工が施された人気の「ライトスリッポン」(1500円)。屋内外の移動が多い内装業などの職人向け作業靴から生まれた

 高機能と圧倒的な低価格が強みのPB靴を武器に、同社は靴小売市場に本格参入する。22年6月には東京・池袋サンシャインシティに2号店を開業予定。東西2店舗で商品ラインアップを拡大しながら運営ノウハウを確立していく。その後、ショッピングモール内で単独店や、女子店との複合店などを出店し、商品が150アイテムに増えた段階で路面に進出する計画だ。

 「靴専門店が販売している靴の多くはメーカー品。小売り主導で展開している企業は少ない。価格に見合ったPB商品を提供し、メーカー主導の業界に旋風を起こしたい」と土屋専務は意気込む。

店頭の壁面では女性向けPBシューズを陳列して#ワークマン女子の客にアピール。同店でしか購入できない商品が並ぶ
店頭の壁面では女性向けPBシューズを陳列して#ワークマン女子の客にアピール。同店でしか購入できない商品が並ぶ

 靴小売業界は、健康志向の高まりからウオーキングやランニングなどのスポーツシューズ、スニーカーの売れ行きが好調だ。業界をけん引するエービーシー・マートは、22年2月期の売上高が前期比15.6%増の2546億円でダントツの首位。2位のチヨダが同5.9%減の886億円、3位のジーフットは同0.6%増の662億円と続く。

 ワークマンシューズは、今期の売上高を140億~150億円まで拡大すると見込んでいる。さらに、路面出店から10年間で200店舗、売上高300億円を目指すという。ワークマンの一般靴の総売上高は、既存業態で展開する300億円と合わせて600億円になる計画だ。

 「将来的には“業界3強”に次ぐポジションを狙っている」と土屋専務。アパレル業界に革命を起こしたワークマンの靴市場への“宣戦布告”が、業界内にどんな波紋を呼ぶのか目が離せない。

(写真/橋長初代)

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