米ラスベガスで2022年3月末に開催された小売業界のイベント「SHOPTALK2022」では、小売りの未来と顧客データに関する議論も繰り広げられた。数多くのセッションの中から注目のトピックをヤプリのExecutive Specialist 伴大二郎氏が紹介する。

 小売りの未来については多くのセッションで各企業の展望が語られた。全てにおいて共通するのはカスタマージャーニーを彩るコンテンツとして「デジタルのエンターテインメント性と店舗の体験性の組み合わせ」が重要であること、その上で「データ資産」がさらに重要だということである。

デジタルのエンタメと店舗体験を融合

 全米最大手の大型スポーツショップチェーンDICK'S Sporting Goods(ディックス・スポーティング・グッズ、以下DICK'S)の上級副社長で戦略・Eコマース・分析担当のスティーブ・ミラー氏は、「オムニチャネルデータを効果的にレバレッジ活用する方法」という講演でDICK'Sが持つ膨大な顧客データベースをどのように活用しているのか説明した。

 年間120億ドル(約1兆5000億円)の売り上げが約3000万人の顧客でつくられており、1人当たりの年間購買額は約5万円と計算できる。この売り上げのうち8割は店舗で、ECは2割。店舗の重要性が高い。

 DICK'Sのデジタル戦略の中心となっているのがモバイルアプリだ。顧客はアプリを活用して在庫が近くの店舗にあるのか確認する。もし周囲に在庫がない場合は別の店舗に行くか、取り寄せる。この仕組みは顧客体験が改善されるのはもちろんなのだが、従来取得できなかった「満たされていない需要データ」を取得できることの価値が大きいという。

 顧客は、スマホの歩数計やヘルストラッカーと連動することで100ポイントもらえる。1日に3マイルまたは1万歩以上歩くことや、30分以上の運動をすることで毎日最大3ポイントがもらえる仕組みだ。これらの機能に加えて野球やサッカーなどプロスポーツ選手からのアドバイスを動画コンテンツとして見ることができるなど、日々のコンテンツとしての価値も高いアプリとなっている。これらアプリの行動はユーザーや需要理解のために活用されている。

スポーツショップチェーン「DICK’S Sporting Goods」のモバイルアプリ。アプリで集めた行動データをユーザー理解のために活用している

 DICK'Sは、野球などスポーツ少年団が試合の記録やチームマネジメント、ビデオストリーミング機能に利用するアプリ「GameChanger」の運営会社を16年に買収している。このデータも店舗運営に役立てている。

 約700万人のユーザーは少年スポーツのプレーヤーまたは熱心な両親や祖父母、コーチなどで、特に野球やソフトボールなど2700万以上の試合のスコアを記録している。バスケットボールやサッカーなどにも対応。ライブビデオもストリーミングで再生できる。少年スポーツのデータ活用の促進に役立てられており、例えば野球のバッターは、統計データを見ることで球筋を絞るなどのチャンスが生みだせる。

 パンデミック時にはこれらのデータを複合的に活用しながら、どの地域や都市でスポーツが始まったか、どの地域では始まっていないかを把握できた。例えば「南カリフォルニアではサッカーが始まったが、北カリフォルニアでは再開していない」ということを知り、より適切な在庫確保ができたのだ。

 このようにDICK'Sは以前から蓄積していた購買情報だけでなく、満たされなかった需要やスポーツ体験そのものをアプリ活用でデータ化し、顧客コミュニケーションや商品販売計画に有効活用している。

 ミラー氏は「これらのアプリを活用することで5年前とビジネスのやり方が全く変わった」という。5年前まで、何百万通ものダイレクトメールや新聞チラシを活用したセールスプロモーションが中心だった。これは優れたカスタマー・エクスペリエンスではなく利益面でも好ましくなかったと判断し、アスリートたちに適切なコンテンツ、適切なプロモーション、適切な取引を提供する働き方に変化した。まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)した姿である。

DICK’S Sporting Goodsの実店舗
DICK’S Sporting Goodsの実店舗
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卸売りを拡大? 変わり始めているD2C企業のグロース戦略

 DICK'Sをはじめ多くの小売りがデジタルやデータを有効的に活用するようになった今、デジタルのつながりを1つの武器にしてきたD2C企業のグロース戦略も大きく変化してきた。

 それを象徴するセッションの1つが、生理用品などのブランド「LOLA(ローラ)」の創業者兼共同CEO(最高経営責任者)のジョーダナ・キアー氏、寝具/インテリア/ルームウエアを扱う「Parachute(パラシュート)」の創業者兼CEOアリエル・ケイ氏、南カリフォルニアのライフスタイルアパレル「Vuori(ブオリ)」の創業者兼CEOジョー・クドラ氏による対談だ。

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