リブランディングからわずか2日で、過去最高の年間売り上げを達成した切り餅がある。高級切り餅「THE OMOCHI」だ。その人気を不動にするため、同ブランドの共同発案者で、高付加価値食品のプロデュースを行うdot science(東京・中央)が手掛ける、食品が持つ「強み」を数値化する「成分分析ブランディング」で商品を分析。やわらかさや口どけのよさで、市販品をはるかに上回る結果が出た。この結果がPRになり、さらなる人気を集めている。
創業60年余りの老舗餅メーカー、笠原餅店(宮城県黒川郡)が2019年11月に発売した、切り餅の新ブランド「THE OMOCHI」が人気を集めている。同ブランドの主力商品である切り餅の価格は、10枚入りの1袋が1200円(税別)からと、市販品の相場と比較して5倍も高い。にもかかわらず、発売されるやいなや注文が殺到。笠原餅店が創業から60年かけて培ってきたこれまでの切り餅の年間売り上げを、わずか2日で塗り替えてしまったというから驚きだ。
餅職人の事業を守るため、3倍の値上げに踏み切る
THE OMOCHIが発売される以前、笠原餅店の切り餅は、1袋400円で販売していた。それを3倍の価格に引き上げ、新たなブランドとして発売する提案をしたのはdot scienceの小澤亮代表だ。dot scienceは、食品に高付加価値を付けてブランディングするプロデュース事業や、食品が持つ「強み」を数値化することでブランド価値を向上させる成分分析ブランディングサービスを提供する。
釜戸と薪火という、創業以来の伝統的な製法を守り作られた餅は、ミシュランガイドの星付きレストランのシェフも太鼓判を押すほどのおいしさだという。しかし近年は、工場で大量生産された安価な餅が市場に出回り、どう差異化を図るかが経営課題になっていた。小澤氏があえて価格を上げて「プレミアムな切り餅」という新市場をつくる挑戦的なアイデアを提案したのは、笠原餅店の切り餅がプレミアムブランドとして打ち出しても十分価値は認められることを、過去に高付加価値食品のプロデュースを手掛けた経験から見抜いていたからだ。
加えて、餅職人が事業を持続させるには、利益率向上のための値上げが必須だった。プレミアムブランドとして打ち出し、販売価格を上げることで価格競争から脱して利益率を高めることは、事業の継続性向上にもつながる。
商品が発売されると、dot scienceの共同代表者などツイッターで多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーが商品を紹介したことで、一気に口コミが広まった。その結果、わずか2日で、笠原餅店の切り餅の過去最高年商を達成。その翌月、19年12月末時点で切り餅の売り上げは、THE OMOCHI発売以前の2倍となった。
22年4月現在も、THE OMOCHIの売り上げは好調で、笠原餅店の切り餅の売り上げは、新ブランド発売以前の2倍を維持している。さらに売り上げを伸ばせるポテンシャルはあるが、製造体制が整っていないため、生産数は現状維持となっている。
「やわらかさ」が他社商品の4倍
THE OMOCHIの人気を不動のものにしたのが、dot scienceが手掛ける食品分析サービス「成分分析ブランディング」だ。
21年4月から提供している成分分析ブランディングは、「相場より高く売ろう」というキャッチコピーの下、食品の品質をデータで可視化し、他社商品との差異化ポイントを探る。
例えば、「おいしさ」「くちどけの良さ」「香り高さ」といった食品の品質を感覚値ではなく、成分分析により数値化する。そうすることで、品質の高さをデータでエビデンスとして示し、マーケティング施策やブランド価値の向上に役立てられる。
笠原餅店が行っている釜戸と薪火という伝統的な製法で作られる餅は、市販品とは比べものにならないほど、やわらかく滑らかな舌触りになるという。品質の高さをデータで可視化することで、競合製品との差異化をさらに明確にできるはずだという狙いがあった。
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