企業内に“個人商店”をつくるという斬新なECサイトを、セレクトショップ大手のビームス(東京・渋谷)が立ち上げた。企業内の個人が消費者と直接コミュニケーションを取り、まさにリアルの個店のような温かいコミュニティーづくりを目指す。新型ECが生まれた背景を探っていくと、次の時代の小売りビジネスやECの形が見えてきた。

ビームスが2022年2月17日にオープンした新型ECサイト「B印マーケット」。ビームスの“出島”として、実験的アプローチが進んでいる
ビームスが2022年2月17日にオープンした新型ECサイト「B印マーケット」。ビームスの“出島”として、実験的アプローチが進んでいる

 「あの人が言うなら間違いない。」

 こんなキーワードで、「人」に着目した新機軸のECサイトをビームス(東京・渋谷)が2022年2月にオープンした。

 その名は「B印MARKET」。“ビージルシマーケット”と読む。ビームスのスタッフが個人の視点でセレクトした商品を、ストーリー(コンテンツ)と共に届けるのが特徴だ。

 コンテンツは主に2つ。「B印MARKET AWARD」と「個人商店」だ。AWARDは、ライフスタイルのシーンに合わせてアイテムを紹介するコーナーで、ビームスのスタッフが実体験をベースにアイテムを収集し、セレクトした。

 一方、本サービスの本丸であり、斬新なのが個人商店だ。ディレクターやバイヤーの経歴があるスタッフ、目利き力のあるスタッフ、さらには特別ゲストが個人商店のオーナー、“店主”となって商品を紹介していく。個人が、思い思いに商品をキュレーションし、自身の言葉と写真で表現をする。

B印マーケット内にある「個人商店」は、ビームスのスタッフやゲストがそれぞれ責任を持って商品を選定し、自身の思いやストーリーと共に紹介する
B印マーケット内にある「個人商店」は、ビームスのスタッフやゲストがそれぞれ責任を持って商品を選定し、自身の思いやストーリーと共に紹介する

 ビームスで既に発売されている商品をセレクトするだけではなく、自分で見つけてきたモノも取り扱う。アパレルからコスメ、雑貨、日用品、家電など、並ぶ商品に何か共通点があるわけではなく、個人の目利きという1点のみが選ばれる根拠となっている。

 サイトのつくりも斬新。商品の一覧性や検索性が“悪い”のだ。一般的に、ECサイトといえば、ジャンルごとに整理されていたり、カラーバリエーションが分かるように商品が並べて写されていたり、購入者の評価が見やすくなっていたりするなど、分かりやすさ・選びやすさに力点を置いているのが定石だろう。

個人商店は、店主ごとにページがつくられ、商品が並ぶ。さながら小規模店舗のECのようなイメージに
個人商店は、店主ごとにページがつくられ、商品が並ぶ。さながら小規模店舗のECのようなイメージに

 だが、B印マーケット、個人商店はその対極にある。商品紹介のページには、商店主が自分でディレクションした利用シーンや世界観をイメージする写真が並び、本人の言葉で説明書きがあるだけ。その説明書きも、商品のスペックを載せるわけではない。詳細を解説するのでもない。どちらかというと、「私はこう使っている」といった、極めてプライベートでかつ主観的な話が並ぶ。

商品の詳細なスペックなどはほぼ書かれていない
商品の詳細なスペックなどはほぼ書かれていない

ECの商品選びのストレスを排除するための新たな仕掛け

 ビームスは09年から自社ECをスタートし、売れ行きも好調だ。21年に日経クロストレンドで実施したインタビューでは、21年の緊急事態宣言の中で店舗を休業したことが影響して全体の売り上げは下がったものの、ECが伸びてEC化率は約43%まで上がったと、ビームス社長の設楽洋氏は語っている。コロナ禍の最悪期を脱出しつつある中、リアル店舗の客足が戻りつつも、依然としてECは好調でEC化率は30%台を維持している。

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 そんな中、新たなECの形として生まれたのがB印マーケットだ。「公式ECとの差別化を考え抜いた」と、ビームスクリエイティブのビジネスプロデュース部に所属し、今回のB印マーケットをプロデュースする高瀬弘将氏は話す。「大量の商品を扱う通常のECでは、消費者は膨大な量の中から商品の概要や口コミなどを見て選び出すのが当たり前だった。ECでの商品選びを楽しんでくれる人もいるが、選ぶプロセスにストレスを感じる人も少なからずいる。そのストレスを緩和することを目指した」(高瀬氏)。

 そこで重視しているのが、「情緒的価値とストーリー」(高瀬氏)だ。セレクトショップで培ってきた目利きが得意なスタッフの個人の主観を強く出すことで共感を呼び、“迷わず”購入できるように意識して動線を設計している。

 個人商店のページはまさに「人」が前面に立つ。投稿画像や記事を読んでいくと、商品の概要が分かるというよりは、その店主の生活が見えてくる。ECサイトにいることを一瞬忘れてしまうような、コンテンツを体験しているような感覚になる。

1記事当たりのアクセスは2倍強に

 22年2月17日のスタートから1カ月以上(3月の取材時点)がたったが、「想定以上の反応」と高瀬氏は驚く。公式ECのトップ面にある「FEATURES」というコンテンツ記事の1記事当たりの月間セッション数に対して、B印マーケットは「1記事当たりで見ると2倍強のアクセスがある」と高瀬氏は話す。サイトがスタートしたばかりで、かつ外部サイトなどへ広告は打っておらず、プレスリリースや公式サイト、オウンドメディアなどで告知をしただけにもかかわらずだ。

 販売に直結する事例も出てきた。例えば、ビームス経営企画部の東谷弥生さんが推薦していた網のバッグやマスクホルダーは即日完売。同社オムニスタイル コンサルタントの和田健二郎さんのネックレスもすぐに売り切れた。

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