最高当せん額は12億――。スポーツくじ「MEGA BIG(メガビッグ)」がCMで認知度を高めている。2020年10月からの1年で、主な購買層である35~49歳の認知度が約70%向上した。CMではMEGA BIGを日常的な娯楽として訴求。視聴者をあおりすぎず、石田ゆり子の安定感を前面に出すことで視聴者の心をつかんだ。
「12億、12億、12億……」――。両手を2回パンパンとたたき、高額当せん者が出た「MEGA BIG」のくじ売り場に向かって、運気を分けてもらおうと拝む人々。その様子をどこか困惑した表情で見つめる、くじ売り場の店長役の石田ゆり子。これは2022年3月に放映された、日本スポーツ振興センターが運営するスポーツくじMEGA BIGのCMのワンシーンだ。
CMの作品名は「売り場を巡るバスツアー編」。12億円の高額当せん者を出したくじ売り場が、縁起が良いという理由から観光スポットとなる。そこにバスガイド役のお笑い芸人かなで(3時のヒロイン)率いる観光客の一団が訪れ、験担ぎしようと拝み始めるという、思わずクスッと笑ってしまうユーモラスな設定だ。縁起の良さやおめでたい雰囲気を演出し、身近に当せん者がいるように見せることで、視聴者の射幸心とワクワク感を醸成している。
ディテールが生々しくならないように
高額当せんを夢見るユーザーの期待感を刺激するなら、キャストが当せん者を演じてバブリーな様子を披露するなど、コンセプトや演出を派手にしたほうが効果はありそうだ。しかし、本作にくじが当たるシーンはない。バスガイドを演じるかなでたちが、「12億、12億……」と高額当せんを祈るだけだ。
あえて「くじが当たる」瞬間や興奮を描かず、演出を“遠回し”にした意図は何なのか。CMを手がけた博報堂クリエイティブディレクター兼CMプランナーの神田祐介氏はこう答える。
「12億円という想像し難い(金額の)規模感や、フィクションを大げさにした世界観にすると、浮世離れしすぎて視聴者を興ざめさせてしまう。MEGA BIGの認知度と購入を促進するためには、『ふとした日常の延長に、高額当せんのチャンスが潜んでいる』と思わせる絶妙な距離感が重要。くじ売り場は駅前や商店街など、生活圏の至る所にあることからも、ユーザーになじみのある存在として認識されるよう意識した」
さらにCM制作上、派手な演出ができない背景には「テレビ局のルール」も関係していた。
「当せんしたお金で『株や土地を買う』といった現実的なアクションや、作り話でも当せん者が登場する演出は、射幸心をあおるのでNG。直接的に当せんを連想させる表現はできないので、ディテールが生々しくならないよう注意している」(神田氏)
こうした事情から、視聴者をあおりすぎる過剰演出は避けなければならない。とはいえ、適度に期待感を持たせないと購買行動にはつながらない。2つの条件の絶妙なあんばいを保つため、神田氏が意識したのがキャストの采配だ。
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