九州を中心にファミリーレストランを展開するジョイフルは、約200万人が利用するスマートフォン向けアプリ「ジョイフル公式アプリ」を軸とした顧客との関係性構築に成功した。デジタル化で出遅れていた同社は、なぜ急速にデジタルシフトできたのか。専務取締役営業本部長の國吉康信氏が旗振り役となり、自ら講師となって統計学を教えるなど、データに強い組織づくりに奔走したことが理由の1つに挙げられる。デジタルに強い組織のつくり方を國吉氏に聞いた。

ジョイフル専務取締役 営業本部長の國吉康信氏
ジョイフル専務取締役 営業本部長の國吉康信氏
國吉 康信 氏
ジョイフル専務取締役 営業本部長
1999年にジョイフルに入社。商品本部生産物流部長、営業企画本部長、商品本部長、経営戦略室長などを歴任し、2020年10月より現職。グループ会社のフレンドリー代表取締役社長を兼務
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――アプリ開発前はデジタルマーケティングに取り組んだ経験がなかった。判断基準がない中で開発を決断した理由は。

國吉康信氏(以下、國吉) 最大のきっかけは費用対効果の測定指標の進化だ。以前はデジタルはおろか、紙媒体の広告ですらほとんどやってこなかった。プロモーションとしては店舗に販促物を設置するといった、インナープロモーションがメインだった。テレビCMやチラシなどは(過去の実績を)忘れた頃にやってみて、やっぱり効果が出なかったということを繰り返していたのが実態だった。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)やIT化という言葉が生まれる中、大手広告代理店などからデジタルプロモーションの提案は何度も受けてきた。そうした広告施策の費用対効果を測る指標として、一般的にPV(ページビュー)やアクセス数、アクティブユーザー数といった中間指標のKPI(重要業績評価指標)を設定されるケースが多かった。

 だが、我々からするとそれではチャネルが紙からデジタルに変わるだけで、中身は同じだ。売り上げや利益といった会社の決算に表れる数字に影響しなければ、手段が変わっただけでデジタル経営改革とは呼べない。使った広告宣伝費に対して、成果につながらないギャップをかなり感じていた。

 一方、ジョイフルのアプリ開発で支援に携わっているunerry(ウネリー、東京・港)から受けた提案は、この指標が他社とは違った。ビーコン(短距離無線通信機器)を用いて、来店した顧客をリアルタイムに数字で捉えることで、来店頻度など経営に直結するデータを細かく分析できるという提案だった。効果が可視化されるため、安心して投資できると判断した。

会長もソシャゲ用語の「ログボ」という言葉を使う

――これまで取り組んだことのない新しいマーケティング施策を取り入れやすくするためには、どのような組織であるべきか。

國吉 マネジメント層のコミットメントがなければ、ここまで早く展開することはできなかった。DXをはやり言葉として捉えるのではなく、持続的に事業に成果として返ってくるための設計が必要なことをトップマネジメントが理解してくれないと継続できない。これは多くの企業が抱えている課題だと思っている。

 最近では、アプリのアクティブユーザーを増やすために、アプリを起動するだけでポイントがもらえる機能を開発した。この機能を経営会議で提案したところ、穴見(陽一)会長からは「つまりログボ(ログインボーナス)のことでしょう」という反応をもらえた。会長がそのような一般的にアプリ利用者の間で使われる言葉を理解してくれているなど、マネジメント層と共通言語があるため、投資判断を仰ぎやすく機能開発しやすい環境になっている。

 アプリの開発時には、最もランクが高い優良顧客にはドリンクバーが1年間無料になる権利を与えることを経営層に提案した。競合店舗とジョイフルが並んでいたときに、選ばれるようにするには強い動機が必要だ。そのためにもドリンクバーを無料化するという強烈なインセンティブを与えたいと提案したところ、会長から二つ返事で了承をもらえた。もちろん、原価に対して、どれぐらいの来店効果が見込めるかといったデータは仮説を基に提示する。だが、そのデータによる判断だけでなく、ITを活用することで顧客へいかに面白い提案をするかという姿勢が経営層にも必要だ。

 ただし、新しい仕組みを全店にいきなり導入はしない。当社はまず20店舗から実験して、成果を見て、全店へと広げる。実験段階でも、短期間ドリンクバーが無料になるクーポンを提供した。顧客を来店頻度でランクに分け、各ランクの顧客の来店頻度がどれぐらい高まるかを細かく分析した。数字でもきちんと論拠をつくり、経営指標にインパクトがあることを示さなければ、投資はできない。結果的に全店導入しても、十分な利益を確保できる確証を得て、拡大を判断した。

――なぜ、デジタルマーケティングの最初の一手がアプリだったのか。

國吉 当社が出店するのは、地方のロードサイドが中心。商圏が狭く、人口も減少が続く。プロモーションでいちげん客を集客しても、順調な売り上げ向上が見込みにくいため、既存顧客の来店頻度を高めることがとても大切になる。優良顧客を脱落させないという戦略がコアにある。

ジョイフルの店舗の外観。同社は地方のロードサイドを中心に出店する
ジョイフルの店舗の外観。同社は地方のロードサイドを中心に出店する

 ただ、これまではジョイフルに来店して、食事をし、帰ってもらうところまでしか対応できていなかった。アプリならジョイフルの店舗外にいる顧客にも情報を提供できる。新型コロナウイルス感染症拡大の影響などで、外出できない状況でも、アプリでつながり続けることで、優良顧客の脱落を未然に防ぐことができると考えた。

 また、優良顧客が売り上げに占める比率も分析しやすくなる。これまでは店長の感覚などに頼っていた。だが、毎日来店するような極端な顧客の人数は正確に把握できても、感覚では全体をつかむことは難しかった。アプリ利用者なら、顧客ごとの来店頻度が分析できる。そのデータを基に店舗ごとに優良顧客が何人いて、その顧客が何割の売り上げをつくってくれているかが可視化できるため、既存顧客に対するプロモーションの投資がしやすくなる。

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