毎年新製品が登場するUVケア市場。花王が2022年夏の主力として投入したのは、塗布するときの触感にこだわった日焼け止め「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトローション」だ。21年5月に一部店舗で先行販売し、そのフィードバックを元に改良。満を持して22年2月に発売した。ビオレUVシリーズでここまで大規模な先行販売をしたのは初。異例の販売方法を採った背景には、UVケア商品を取り巻くニーズの変化とそれに伴う商品の多様化がある。
もはやSPFとPAでは商品が選べない
「一昔前まで、日焼け止めといえば紫外線防止が役割だった。今は、それだけでは十分ではなくなっている」。花王ヘルス&ビューティケア事業部門スキンケア事業部シーズングループの宿野部淳氏は、日焼け止めをはじめとしたUVケア市場の現状をこう語る。
理由の1つは、日焼け止めの使用が日常化したことだ。アウトドアやスポーツなど野外で活動するときはもちろん、ちょっとした外出や屋内でも日が差す部屋にいるときに使う人は多い。花王の調べでは、日本で日焼け止めを使用している人の割合は9割に至る。
もう1つは、「SPF」や「PA」といった指標だけでは、消費者が商品ごとの紫外線防止効果の違いを判断できなくなってきたこと。夏が近づくと、ドラッグストアなどの売り場には大量の日焼け止め商品が並ぶが、花王によると、売り場の約9割はSPF50+という最高値の商品になっており、こうした指標だけでは商品を選ぶのは難しくなっている。
結果、UVケア商品は近年、多様化が進んでいる。花王の看板商品「ビオレUV」ブランドだけでも、商品群は主に3シリーズ。日本の高温多湿な夏、スポーツやレジャーなどの過酷なシーンを想定して、落ちにくさに注力した「アスリズム」、塗りやすさや肌なじみ、化粧下地機能など、日常的に使う上での快適性を重視した「アクアリッチ」、花粉やPM2.5などの微粒子の付着を防ぐ抗塵機能も付加した「バリア・ミー」を取りそろえ、利用者のニーズに細かく応える商品構成としている。
しかも近年は、これらを併用する人も少なくない。花王の調査によると、日焼け止めを年間3本以上購入するヘビーユーザー層は、人数ベースで全体の26%。そのうち69%は同一銘柄をリピートするのではなく、利用シーンや使い勝手によって使い分けていることが分かった。「もはや日焼け止めは、ユーザー属性などによってセグメントするのではなく、1人1人の消費行動を見て、開発、提案する段階に入った」と宿野部氏は説明する。
機能だけじゃない実感への働きかけ
その中でも、花王の主力となるのが、ビオレUVシリーズの売り上げの約7割を占めるアクアリッチシリーズだ。一番のボリュームゾーンのため、利用者の真のニーズが見極めにくく、日焼け止め効果と快適性のバランスも求められる。
花王ではこれまで、落ちにくさや塗りむらを防ぐことを中心に商品を改良してきた。例えば、19年にリニューアルした「ビオレUV アクアリッチ ウォータリーエッセンス」は、UVカット成分を内包したカプセルをミクロレベルまで小さくすることで、肌表面を極力、隙間なく覆えるようにしている。「だが、どんなに高い技術で防御力を高めても、使用する人に『守られている実感』がないと安心感にはつながらないと感じていた」(宿野部氏)
それを解決するために開発したのが、新商品の「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトローション」(以下、水層パックUV)だ。同商品では「肌なじみの実感」を重視。UVカット成分を寒天ゲルでできたカプセルに内包し、塗り始めはローションならではの水のようなするするした感触ながら、肌に伸ばす過程でカプセルが壊れて中のUVカット成分が肌に密着。その際、肌触りも表面をするする滑るような感触から変化し、肌になじんだことが実感できるようにした。
「肌になじんだ実感がきちんと得られることは、守られている安心感を求めるユーザーにとって普遍的な価値」と宿野部氏は明言する。その一方で、この時点ではまだ迷いがあったと振り返る。理由は、20年から続くコロナ禍での消費者ニーズの変化。「顧客の本当のニーズはどこにあるのか。コロナ禍で変化しているのか。今の顧客にとって、この商品が提供できる1番のベネフィットは何なのかをより詳細に捉えたかった」(宿野部氏)からだ。
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