発足70周年を迎えるJIDA(日本インダストリアルデザイン協会)が、有料のオンライントークイベント「JIDA Night」を2022年1月に開催。マツダの常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏と、富士フイルム執行役員でデザインセンター長の堀切和久氏、JIDA理事長の太刀川英輔氏の3人が「日本の産業とデザインの関係を更新する」をテーマに語った。

JIDA 理事長
マツダ 常務執行役員
富士フイルムホールディングス 執行役員
太刀川英輔氏(以下、太刀川) 世界一美しい車を生み出す会社とまで言われるようになったマツダの前田さんと、デザインとエンジニアリングをつないでイノベーションを起こし続けている富士フイルムの堀切さん。お2人はデザイナーであり、経営にも携わっているのが共通点です。今日は日本の大企業をデザインで大きく変えたインハウスデザイナーのお2人が、どんな視点で企業に変化をもたらしてきたかを聞きたいと思います。
前田育男氏(以下、前田) 2009年のデザイン本部長に就任以来、マツダにおけるブランディングとデザイン、経営とデザインの関係の再構築に挑戦してきました。まずは経営の指標を数字からブランド価値に置き換えることからスタート。カーデザインの領域では、ひと目でマツダと分かる独自性が必要と考え、10年にデザイン哲学「魂動ーSOUL of MOTION」を生み出しました。この魂動デザインが目指す生命感を形にしたオブジェクト「御神体」をつくって、それを車にしたのが12年発売の「アテンザ」。16年からは、マツダが発信する形あるものはすべてデザインのフィルターを通そうと、デザイン本部内にブランドスタイル統括部をつくりました。今ではマツダ車を扱う販売店のデザインも大きく変わっています。
太刀川 アテンザは当時、価格が何倍もする海外ブランドと肩を並べて、海外のデザイン賞を受賞しましたよね。日本企業のデザインが評価されたのを知って、うれしくなったのを覚えています。
美しい造形には力がある
前田 現在は魂動デザインを深化させ、「CAR as ART」というテーマを掲げています。その1号車が、15年発表のコンセプトモデル「RX-VISION」です。
堀切和久氏(以下、堀切) 私も当時、東京モーターショーに見に行きました。実物は、写真よりもすごいと感じた記憶があります。
前田 周囲の環境で変化するボディーのリフレクションによって生命感を表現しています。その次に、日本の凛(りん)とした雰囲気を追求した「VISION COUPE」を発表しました。近年、デザインの役割が大きく広がった一方で、形そのものが持つ価値を軽視する風潮を感じています。美しい形を生み出すことがデザイナー本来の役割で、美しい造形にはまだまだ価値があると思っています。
堀切 我々のプロダクトデザインチームも「もう一度、美しさにかえろう」をテーマに、自分が美しいと思うものを持ち寄って紹介する会を定期的に開催しています。若手とベテランで、美意識がちょっとずつ違うのが面白いですね。美意識はデザイナーに限らず、誰にでもあるはずで、その存在に気づかせてあげることも社内での我々の仕事だと思っています。
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